カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
テンポの速いあざやかな場面転換と、年季のいった役者さんたちが生き生きしているところが、いかにもアメリカのミュージカル。
母親と心が通わなくて注意を引きたい一心で自殺ゴッコに走る青年ハロルド Harold(三浦涼介さん)と いじわるばあさんを陽性にしたような「いたずらばあさん」のモード Maude (大方斐紗子=おおかた・ひさこ=さん)が 教会の葬式で出会うところからスタートする。 モードおばあちゃんは、見も知らぬひとの葬式だけどお葬式って「おもしろい」から来てるのと言う。 のっけからモードおばあちゃんらしさ全開なのだ。 ハロルドが心を開いてゆくのも納得性がある。 特異なキャラクターが2世代分の年齢を超えて恋愛そのままの気持ちにまで互いを高めあう様子に違和感がない。 完成度の高いすぐれた台本だ。 有楽町線・東池袋駅前の新劇場「あうるすぽっと」のこけら落とし公演。 あうるすぽっとは内装にいかにも公共施設らしい素っ気なさも感じられるものの、最後列でも舞台との親近感をじゅうぶん保てる手ごろなサイズだ。 今回の公演、生演奏のミュージカルで5人の役者さんの演技もよくて、5,500円はいまどき安い。 大方斐紗子さんは、ぱっと見、縮まっちゃった感じのおばあちゃんなのだが 「回るよ、回る(宇宙のダンス)」を歌いだしたらその声のちからにぼくのからだの骨たちが火花を発しながらダンスをはじめてしまった。 なんというパワーだろう。 パンフレットを読むと ≪……私も生死に関わるような体験を色々しました。 火事で喉に火傷を負い声を失ったり、最近も洪水で家が浸水したショックから失語症になってしまったり。≫ ≪けれどその度に、リハビリ中に新しい発声法を見つけて低かった声が3オクターブも出せるようになったり、失語症を乗り越えて立った膨大な歌と台詞を演じる一人オペラをミスひとつなく終えて自信を得たりと、何かを失うことでかえって大きな発見をすることもあると、身をもって知りました。≫ みごとな女性でいらっしゃる。 打たれづよいモード役に適任のかた。 ご本人も ≪そういう経験は、どこかモードの人生に重なるようで、演じていても装う必要がない≫ と語っておられる。 助演の立川三貴(たちかわ・みつたか)さんは神父から軍人までこなす早変わりがおもしろいし、 ハロルドの母のチェイスン夫人を演じる旺(おう)なつきさんの歌「鏡よ、鏡」もからだを張ったコミカルさが忘れられない。 杉村理加さんも7役こなすなか、とくに最後のはではでダンサーのサンシャインがいいノリだった。 この規模のミュージカルとしては、どこをとっても合格点で、いいお芝居。 公演は9月30日まで。おすすめです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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