カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
ごくたまに地下鉄に白いブリーフ1枚きりで乗っている夢を見たりする。
会社の廊下でやおら自分が、トランクスすらはかずに素っ裸でいることに気づくこともある。 せめて家から大師前の駅に向う途中で、近所のひとが教えてくれればよかったのに。 「もしもし、パンツしかはいてませんよ」 「どうしたんですか。見えてますよ、ぜんぶ」 とか。 見せたくてエイヤッと裸になったのなら、その瞬間を演じればいいと思うけど、とつぜん裸でいることに気づいただけだから、ただただ恥ずかしい。 そのうち、いろんなことの辻つまが合わないことに気がつきはじめ、「夢」であることに救いを求めている自分に気づく……。 そんな自分語りでもして始めないと批評が書けない劇「犯さん哉」。 演出ケラリーノ・サンドロヴィッチ先生演出の舞台を観るのは、「犬は鎖につなぐべからず」についで2作目ですが、「犬は……」のほうは岸田國士短編劇の換骨奪胎オムニバスものだった。 「犯さん哉」 これはもう、ケラさんの蒸留酒の池にアメンボの大群を放ってやがて蒸留酒に屈服してゆっくりと沈んでゆくアメンボたちを下から撮ったような劇ですね。 あはは、何のことかわからないでしょ。 「犯さん哉」にアメンボなんて出てこないんですけど、直感で書いてみました。 同居中の女性に「犯さん哉」を観に行くと言ったら、てっきり乱交ものと勘違いされましたが、混沌コミカルの8人劇です。 「あのシーンは異常におもしろかった」と言うしかないシーンがこれでもかこれでもかと体当たりで(けっしてドタバタでない体当たりで)おもちゃ箱のなかのように展開する。 ストーリーを言ってもほとんど意味がないので書きませんが、ケラリーノさんがパンフレットでこんな秘密を書いてくれていました。 ≪その手のナンセンスを僕が書く場合、まず、それをギャグなしの台本に置き換えて、シリアスに演じたらどうなるかを思い浮かべて、そこから変換していくんです。 ズラして、笑いにもっていく。 どの方向に何をズラし、何をズラさないかを考える。≫ この方法論があるから2時間もののナンセンスまたはデタラメが創作できるんですねぇ。 これを舞台でかたちにしてゆく役者さんの力量も半端じゃない。 流し目が絶妙の座長の古田新太(ふるた・あらた)さんをはじめ、おひとりおひとり感想を書き出したらひとり当たり400字くらい書いてしまうかもしれない。 中越典子(なかごし・のりこ)さん。きらきらした存在。 そしてまた、パンフレットのポートレート写真の妖艶といったら! あれはいい写真だ。 犬山イヌコさん。このかたのパンフレットのことばが、ケラさんワールドを受ける側の事情を表白しているので引用しますと ≪わしもこういうデタラメは好きだし、面白いと思うんですけど、やるとなるとスゲー大変。 まずはセリフが覚えられない! というのも、例えばAさんって人がいて、Aさんが言ってることは支離滅裂なんだけど、Aさんの中では理路整然としている。 最終的にはそういう見え方にまでもっていかないといけないんですけど、そこにもっていくまでが……。≫ (冒頭の「わし」は原文どおり) ≪普通に会話が成り立っているようで、成り立ってなくて、でも成り立っているみたいな(笑)。 自分の中でそれを腑に落とすまでが大変で、セリフが覚えにくいんですよ。≫ そんなご苦労をまったく感じさせないプロの技の舞台でしたが。 姜 暢雄(きょう・のぶお)さん。二枚目。 このひとの演じた娼婦のいじらしさとかわいさ、うつくしさ。ぼく、一線を飛び越えそうになりました。 大倉孝二(おおくら・こうじ)、八十田勇一(やそだ・ゆういち)、山西 惇(やまにし・あつし)さんあたりの苦労人が渋いところをしっかり支えていて、 入江雅人(いりえ・まさと)さんは、これはおいしい助演役を独り占めのかっこよさだ。 座長の古田新太さんのブリーフ1枚のきまじめなとぼけ役は、あ;あ;あ;夢に出てきそ。あ;あ;あ痛て。 さいごに「生ましめん哉」に終焉するところで起承転結がきまります。 大学時代の早稲田大学心理学科の友人の風貌にそっくりな古田新太さん。すっかりファンになってしまいました。 このひとの出る作品は、ぜんぶ観たい。そんな気分です。 渋谷の PARCO 劇場で10月28日まで。 前売券は千穐楽までほとんど売り切れ。ぼくは前日に当日券の予約をして、キャンセル待ち番号7番で1列目の特等席をゲットしました。 サイコーの日曜日でした。 (チケットぴあのキャンセル待ち申し込みの電話番号は 03-5237-9350) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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