カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
古典作品が描いた人間関係を敷き写しながら現代ものの劇をつくるという趣向は三島由紀夫の『近代能楽集』みたいで、興味があった。
新国立劇場が企画した「三つの悲劇 ― ギリシャから」は3本の独立したストレート・プレイ。ギリシア悲劇の換骨奪胎もの。 1作目「アルゴス坂の白い家」を見なかったことを今になって悔やんでいる。 2作目の「たとえば野に咲く花のように」の千穐楽公演を11月4日に観にいった。 舞台の田畑智子さんに会ってみたかったから。 田畑さんはぼくにとってはやはり平成12年のNHKドラマ「私の青空」の人だ。愛らしくもひたむきなシングルマザーを演じていた。 今回も凶暴なまでに愛らしい片想いの女性を演じていて、役がとても合っていた。 朝鮮戦争のころの福岡県の港町のダンスホールで繰り広げられる、さまざまな片想いの絡み合いを描いている。 ひょっとしたらその「片想い」の最たるものは 自分の思い込みのなかの“政治”に対して正しくあろうとする朝鮮人青年、安田淳雨(演・大沢 健)なのかもしれない。 朝鮮人経営の金物工場を襲撃しつつ「あの工場の製品は祖国朝鮮の同胞を攻撃するための武器の部品になっている」と正当を主張する淳雨。 脚本・演出が姫路生れの鄭 義信さん。 半島人の視点を振り回しナマの絵の具を絞りだしたような政治モノを観させられるのかと身構えてしまったのだけど、 淳雨の姉の安田満喜(演・七瀬なつみ)が言い放つのは 「戦争が終わるまでは日の丸を振り、戦争が終わると赤旗を振り、お前は何ひとつ変わっちゃいないじゃないか。工場を壊し、ひとの生活を立ち行かなくさせておいて、なにが正義だ」。 常識的なところに収めてくれたおかげで、ようやく安心して観つづけれられた。 新国立劇場の中劇場は、舞台に本物の雨をしゃらしゃら降らせることができる。 これが劇の後半でストーリーの白熱をしっとり冷ませてくれて、なかなかよろしい。 雨はけっこう長時間降っていたが、水はけのいい舞台だった。すごい。 凶暴な片思いの応酬は、やがて陽だまりのなかの安息へと収斂しておわる。いい舞台だった。 11月14日からのシリーズ3作目「異人の唄」もぜひ観たい。 「マリー・アントワネット」で修道女アニエスを演じた土居裕子(ゆうこ)さんと 「ミー・アンド・マイ・ガール」でいたずらっぽく妖艶なジャッキーを演じた純名りささんに会いたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Nov 11, 2007 10:47:23 PM
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