カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
ストーリー原作の The Woman In White は1859年にディケンズが主宰する雑誌で連載開始というから、年代もののミステリー小説だ。
作者ウィルキー・コリンズが35歳のときの作で、当時は英米でベストセラーになったという。 『白衣の女』という和訳本が出ている。 (題としては『白いドレスの女』のほうがよかったかも……) 公演初日を観てきた。 (↓ 「ウーマン・イン・ホワイト」サイト !注意! 音が出ます!) http://hpot.jp/wiw/ 主演の笹本玲奈さんの演じるマリアンは、愛らしい笑顔、心をよぎる嫉妬感、鬼気迫るほど狂おしい嘆きから、誘惑の媚態まで、演技の幅を存分に見せていただけた。 笹本さんは「マリー・アントワネット」のマルグリット役や「レ・ミゼラブル」のエポニーヌ役ではなかなか出せなかった豊かな表情が、くりくりぐりぐりと全開して、あるときは見ているだけでじ~んときてしまった。 役をほんとによく研究しておられる。 笹本さんのブログを読んでいると、アンドリュー・ロイド=ウェバーの今回のメロディーは歌いにくい難曲で苦労なさったそうだ。 舞台では高音部が透明感をたたえてよく伸びて、涼風真世さんもかくやというみごとな出来だった。 笹本さんのブログでは、マリアンがいつくしんでやまぬ妹ローラを演じる神田沙也加さんとの仲良しぶりもしきりに書いてある。 舞台でローラにつぎつぎとふりかかる不幸を自分がはからずも導いたことに苦悶するマリアンの姿は、妹へのいつくしみが強ければこそ。 ほんとうの姉と妹のように仲のいい二人が、迫真の気をつくってくれたのだと思う。 テンションの高い舞台を和らげてくれるのが“ちょい悪”の楽天的イタリア人フォスコ伯爵。 3年前のロンドン初演時のCDを聴きながら今このブログを書いているのだが、そこでフォスコ伯爵を演ずる Michael Crawford の英語はなるほどイタリア語なまりだ。 東京の舞台は上條恒彦さん。 英語の舞台がイタリアなまりだったからといって、上條さんに変な日本語をしゃべらせるような演出はせずに、周囲とは一味ちがった存在感でもって異国人らしさをにじみ出させたのは正解だ。 ぎゃくにテンションの核となるのがパーシヴァル卿で、これが一見は善人、じつは唾棄すべき下司野郎だ。 石川 禅さんが藝達者をみせてくれた。憎たらしい場面など、ほんとに憎悪の脳波をびりびりと舞台に放射してしまった。禅さん、ごめんね。 劇の冒頭からたびたび狂女として登場する「白いドレスの女」アン・キャスリック。 演じたのが山本カナコさん。堀内敬子さんみたいな面立ち。 もともとストレートプレイの音楽ものをやってきたひとで、本格的ミュージカルははじめてだという。 カーテンコールの挨拶で、“座長”笹本玲奈さんが「舞台は日々進化します」と言っていて全く同感なのだが、ぼくが楽しみなのがこの山本カナコさんの進化なのだ。 初日も狂おしさの表現ぶりは合格点なのだが、気負いで力が入りすぎたところもあった。 実力のほどは十分感じられたから、山本カナコさんはきっと大化けすると思う。楽しみ! セリフの量が限られるミュージカルで、推理小説仕立てというのはとても難しいのだが、「ウーマン・イン・ホワイト」はみごとに成功している。 第2幕後半の、或る驚きの再会は心臓をゆさぶられる最大の謎解きだった。 賛美歌を思わせるロイド=ウェバーの音楽が嵐のように降り寄せてきて感動を盛り上げる。 第2、第3の謎解きがつづき大団円を迎えるのだが、少し満たされないマリアンの気持ちが舞台を浮遊して終わる幕の引き方は、じつに大人の味がある。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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