カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
まァこのポップな(と表現してよいのか)
廃材や やぶれトタン板の散らかる現場で「めぞん一刻」の世界が広がったかのような宣伝ビラの写真を見てください。 現代タッチのコメディー「どん底」に仕上がっているのにちがいない。 ……と思って渋谷のシアターコクーンに行ったら だまされたと言ったら聞こえが悪いけど ケラリーノ・サンドロヴィッチさん(以下「ケラさん」)の台本・演出の演劇はしごく正統派で (それゃチラリズムな遊びは散らされているとしても) ウェイターたちが軽やかに踊りながらドカン、またドカンと、大皿盛りの煮込みや大串焼きを置いてゆくのでした(これ、比喩)。 (↑ これは宣伝ビラのウラ。いや、こちらがオモテかな。) ケラさんの解説によると マクシム・ゴーリキーの原作の社会批評的な部分を削ぎ落とすいっぽう、登場人物どうしがもっと互いに絡み合うように書き込んでいったのだそうで 原作を読み比べてケラさんワールドの所以(ゆえん)を確かめると面白いのでしょうが 残念ながら『どん底』原作は、ぼくの興味の順位としては下のほうです。 読むのは20年後でしょう(そのころまだ生きてればね)。 そう思ったから、ロビーで売っていた岩波文庫も買わなかった。 その代わり、ケラさんが岸田國士(きしだ・くにお)の一幕劇を巧みに連鎖コラージュした戯曲『犬は鎖につなぐべからず』(白水社)を買いました。 この「犬は……」の公演@青山円形劇場@平成19年5月で、竹久夢二の絵から歩み出たような緒川たまきさんに出会って、 はかなさと毅然が同居している彼女の美しさのとりこになった。 その緒川たまきさんが今回の「どん底」にも出ている。 薄倖のヒロインの典型と思われたナターシャは、第2幕後半の山場で人間関係をひっくり返す存在に変身する。 シャネルの芳しい香水が、突然に黒煙を上げて燃え、香ばしい残り香はやがて降りしきる雪に洗われてゆくのだ。 第2幕の山場で吹雪いた白雪を、ぼくはたぶん一生わすれないだろう。 (公演は4月27日まで東京・渋谷のシアターコクーンで。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Apr 21, 2008 11:33:36 PM
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