カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
宮本亜門さん演出の 「ルドルフ ザ・ラスト・キス」。
いちばんかっこいい役どころは、狂言回し役の 「手品師」 ヨハン・ファイファーだろう。浦井健治さんが演じている。 「黒いピーターパン」 と言えばいいかな。そんないでたちで、道化師アルルカンのように白く塗った顔。緑色の髪。 神出鬼没のヨハン・ファイファーが 「見たいものだけ見ればいい ここはウィーンさ」 と澄んだ声で ものうげに歌って幕が開く。 動きも軽快に、人間界を覗き見しては走り去る。 皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラが追い詰められてともに命を絶つあとも、ヨハン・ファイファーは箱抜けをしながら軽やかに歌って花びらを散らす。 この幕の引き方が絶品で、心憎いばかりだ。 一昨年から昨年の帝劇 「マリー・アントワネット」 で闇に点る光と苦悩を演じ闘った笹本玲奈さんは、「ルドルフ」 ではありのままに花を咲かせてくれている。 明朗で芯のつよい令嬢マリー・ヴェッツェラをうつくしい笑みとゆたかな表情で演じていて、笹本玲奈さんの魅力がそのまま輝く舞台になった。 『シアターガイド』 6月号、岡幸二郎さんとの対談でこんなことを言っておられた。 ≪笹本 私が今一番悩んでるのが、マリーはルドルフのどこにひかれたのかっていうこと。 岡 あんな苦悩ばかりの男性に、ねえ(笑)。 笹本 生きることをあんなに謳歌してる女の子がルドルフと一緒に死のうと思うまでの気持ちの流れをつかむのが難しいんですよね。≫ そんな役作りの苦労をまったく感じさせない納得感のある舞台だった。 かわいいだけではなく、運命的出会いの波濤に身を投じることを選ぶ心の強さが、とても自然なかたちで彼女のからだ全体から立ち上ってくるようだった。 皇帝フランツ・ヨーゼフ (壤 晴彦 じょう・はるひこ) と首相ターフェ (岡幸二郎) のふたりが、世の体制というものを体現して重く立ちはだかり、舞台はきしみルドルフとマリーを追い詰める。 それでいて舞台に心地よい風が吹くのは マリーの友であり相談役の伯爵夫人ラリッシュ (香寿たつき) の快活さと ルドルフ (井上芳雄) の専属御者ブラットフィッシュ (三谷六九 みたに・ろっく) のやさしい眼差しゆえだろう。 東宝ミュージカルらしくアンサンブルもすばらしかった。 時代に変化を求める民衆の姿は、「マリー・アントワネット」 や 「レ・ミゼラブル」 の民衆ではなく、まぎれもなく19世紀末の民衆だった。 時代の息吹を伝えることに成功した。 音楽は、ミュージカル 「ジキル&ハイド」 の名曲の数々を作曲したフランク・ワイルドホーン。 帝劇ロビーで、「ルドルフ」 世界初演のハンガリー版のCDを売っているかと期待したのだが、残念ながら売っていなかった。 今回の日本語版か、これからウィーンで上演されるドイツ語版のCDが発売されるのを楽しみにしている。 (公演は6月1日まで帝国劇場で。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
May 18, 2008 03:00:45 PM
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