カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
今年4月に新国立劇場で上演された 「焼肉ドラゴン」。
日・韓俳優の共演ということで、気になる作品だった。 パワフルな宣伝文や好意的劇評を見ても行きそびれたのは 「韓国がらみということで評価にゲタを履かせてないか?」 と思ったから。 6月28日にNHK衛星第2で放送されたので、ビデオで観た。 最後の30分ほどが絶品だったので、ほめ言葉を書いておきたい。 ときは昭和45年、大阪は万博に沸いている。 戦後の混乱期に国有地に居座った朝鮮人・韓国人町の一角に「焼肉ドラゴン」という店があった。 (舞台には「焼肉ホルモン」と大きく書いた看板がかかっている。) 店を経営する一家は、ともに済州島(さいしゅうとう)生れの禿頭のおやじ(申哲振 しん・てつしん さん演)とパワフル・パーマの肝っ玉母さん(高秀喜 こう・しゅうき さん演)が、それぞれに連れ子を抱えながら再婚した家族だ。 顔なじみの客たちが織りなす日々。 娘たちに言い寄る男ら、屋根の上が好きな情緒不安定の息子、娘が連れてきて親に紹介する律儀男。 祖国帰還が再開されたら「北」へ行くのだという男(千葉哲也さん演)は、「北」から届いた手紙の不審な表現のことを語って警告する仲間に耳を貸そうとしない。 ストーリーらしいストーリーがない喧騒のまま前半の1時間が過ぎ、やがて人々はさまざまな別れに直面しはじめる。 国有地を公園化する計画が実施されることになり、半島移民らの立ち退きが命じられて、禿頭おやじらは体を張って抵抗するが詮ないこと。 わが身の上を、すぱっ、すぱっと語って聞かせる おやじが、いい。 そして、ごんごん強いだけが取り柄のように振舞う肝っ玉母さんの、しみじみした優しさがほとばしる瞬間も、いい。 ストーリーのない喧騒の前半はこの「しみじみ」にひたるためだったかと客を十二分に納得させ、桜吹雪で終わる舞台は、なるほど賞賛に値した。 脚本・演出 鄭義信(てい・ぎしん)さん。混沌を生み、収斂させる技。 舞台美術の島 次郎さんの仕事の、臭いたつリアルさ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jul 5, 2008 02:31:47 PM
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