カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
帝劇ロビー出口あたりにアンサンブルの皆さん20名ほどが並んだ。 観劇を終えた人々が握手の列をつくった。 ぼくは列に加わりかね、やや離れたところを行きすぎながら目が合った俳優さんたちに会釈した。それだけでも、すがすがしさが胸を駆けた。 8月9日の夜の部は、 エンジニア 市村正親さん キム 笹本玲奈さん クリス 井上芳雄さん エレン シルビア・グラブさん。 これらの役は4名1役のキャスティング。 なかでも見逃せない役者さんが勢揃いした公演を選んだ。 伝説のミュージカル 「ミス・サイゴン」 だけど、筋書きを調べたことがなかったので、まことにお恥しい勘違いをしていた。 ベトナム娘のキムが米国人の「エンジニア」に恋をし、エンジニアの子を宿し、劇の最後にヘリコプターが大使館から飛び立ち、キムとその子がベトナムに残される悲劇……なのだろうと、何となく思っていた。 笹本玲奈さんのキムが市村正親さんのエンジニアに恋をしてしまったら、井上芳雄さんが何のためにいるか分からないじゃないか。 配役を見たら、悟れよな。 市村さんの狂言まわしぶり。円熟が生んだ軽みの一瞬一瞬が濃い。 笹本さんが歌いはじめると、2階席にいても心がじんじん沁みた。 キムの短い いのち そのものに跳び込んで、泳ぎきった。 バンコクの歓楽街パッポンあたりのゴーゴー・バーのお立ち台から玲奈キムがビキニで現れたのには、びっくり。 胸もとをそれとなく隠そうとする仕草で初々しさを表わす。 そして、愛する人との再会がかなうことを知った喜びが、いなづまのように劇場を明るくした。 共産軍の全土占領がもたらした別れの悲劇は無数の人々それぞれを襲ったけれど、「ミス・サイゴン」の悲劇はその先にあるキムだけの悲劇だった。 それは、不必要ともいえる犠牲だから痛ましいのだけど、けっして不条理な悲しみの発作ではなくて、愛するいのちが新たな人々によって全面的に受け入れられることを願ったゆえの考え抜かれた犠牲だったから、一層つよく心を打つ。 何度目かのカーテンコールで、舞台にひとり現れた市村正親さんに劇場総立ちで拍手を送って、ホールを後にしながらキムの最後の決断の意味を考えるとき、感動が2度、3度と波のように押し寄せた。 ほんとに、あとをひく思いをいっぱい残してくれる名作だ。 深い満足を得て、夏が終わってしまったような気がしたが、8月はまだまだ終わらない。 だって、8月23日には1階席から観るのだ。 エンジニアが別所哲也さん、エレンは RiRiKA さん。 そしてもちろん、笹本玲奈さんと井上芳雄さんにも会える。 さて、劇場のロビーには数多くの役者さんたちの書いた色紙(しきし)も飾られていた。 笹本玲奈さん。 こちらは新妻聖子さん。 沖縄県出身の知念里奈さん。 そして、4年前の公演の松たか子さんに代わって、今回「キム」キャストに加わった高知県出身のソニンさん。 いずれも、キム役の4人でした。 (公演は10月23日まで帝国劇場で。そのあと来年1月5日から3月15日まで福岡の博多座で。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Aug 10, 2008 06:33:20 PM
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