カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
深い感動に包まれた。
スタンディング・オベーションのあと、劇場ホールを出る自分の目が涙で腫れていた。 “Marguerite” ロンドン公演のCDを1ヶ月前に買って聴いたとき、China Doll (陶器の人形) と The Face I See (鏡に見る顔) の2つのナンバーに揺さぶられた。 ミュージカルのCDを公演前に聴いても、お芝居の中での歌の位置づけが分からないから、感動も半(なか)ば加減のことが多いのだが、この China Doll と The Face I See のしみじみと聴かせるちからは、いったい何なんだ! 「レ・ミゼラブル」 や 「ミス・サイゴン」 を送り出した作詞・作曲陣の新作。 公演を観たらどんな感動が襲うかと、こわいような気持ちで日生劇場に坐ったが、期待をこえる歌のちからに打ちのめされた。 * ドイツ軍の占領下のパリ。 歌姫マルグリットはドイツ軍の将軍オットーの寵愛を得、周りにはドイツ勢とうまくやっていこうというフランスの富裕層が群がる。 青年ピアニストのアルマンがジャズを弾く。 きょうはマルグリットの40歳の誕生祝いのパーティーなのだ。 突然の爆撃に、パーティー客たちは防空壕へ避難するが、マルグリットとアルマンはホールに残る。 それが彼らの許されざる恋の始まりとなる……。 ストーリーは、レジスタンス運動も絡め、オットーとアルマンのそれぞれの嫉妬にもみくちゃにされるマルグリットが歴史の車輪に轢かれてしまうまでを一気に描く。 大きな場面転換がなく、途中でちょっとダレてしまうのだけど、 第2幕の最後の15分に深い感動のストーリーが詰まっている。 偏見と不理解がもたらした わだかまりが晴らされるとき、あまりにも短い和解の時間がおとずれ、永遠の愛への予感を残して舞台は幕を下ろす。 心臓が かっと熱くなった。 最後の15分を緻密に積み上げて、しみじみとした幕引きにもってゆく手腕はみごと。 「ミス・サイゴン」 の終わり方などは、予想外の急展開のあと、事態をどう消化すればよいのか観劇者が戸惑うなかであっさり幕が引かれてしまい、あまりにあっけないのだが、 この 「マルグリット」 の結末は急展開への戸惑いをゆっくりと消化して心のなかの深い余韻に換える時間を与えてくれる。 * マルグリットを演じた春野寿美礼(はるの・すみれ)さんについて、恥ずかしながら無知だった。 宝塚・花組のトップとして優れた仕事をされた方だということをプログラムを読んでようやく知ったのだが、じっさい歌唱力・演技力とも惚れぼれした。 美しいひとだ。 終演後、日生劇場の1階ホールに出待ちの人垣ができていた。 アルマンを演じた田代万里生(たしろ・まりお)さんのことにも、無知だった。 プログラムを見ると、東京藝大声楽科卒でオペラ界のホープとある。 なるほど、歌もピアノもみごとなはずだ。 欲をいえば、5~10歳くらい老(ふ)けたメイクアップをしてほしかった。 アルマンの想定年齢は23~24歳。 田代さん自身は25歳なので、自然体でいいじゃないか、と思われるかもしれないが、 田代さんは童顔タイプで、舞台の姿は18歳くらいに見えるのだ。 40歳の歌姫との恋なので、青年とはいえもう少し老けて見えたほうが自然だ。 * 飯野めぐみさんを“発見”したのも、今回の収穫だった。 舞台ではアルマンの姉のアネット役で、マルグリットの誕生祝いではバンドの歌手として歌を聞かせてくれるのだが、声が澄んでいて気持ちがいい。 プログラムを見ると 「ルドルフ」 「ペテン師と詐欺師」 「KEAN」 など、わたしが観た作品にも出演しているではないか。 手元の 「ルドルフ」 のプログラムを見ると、12名の女性アンサンブルのなかで真っ先に紹介されている。 劇団四季から、東京ディズニーランドに移ってダンスと歌で活躍していた人だそうだ。 ぜひこれからも、いい役を獲得されますよう! 「マルグリット」 は3月29日まで日生劇場で公演中。 まだいくらか席が残っているようなので、どうかお運びください。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Mar 22, 2009 05:17:50 PM
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