カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
笹本玲奈さんの新境地。
演じるジュリーは紡織工場のはにかみ屋の女工さん。回転木馬の客引き男の、やんちゃなビリーに惹かれてしまう。 ビリーは、みかけがダンディーな車寅次郎なのである。 強がって、なかなか素直になれないが、じつは繊細な部分を抱えている。 寅さんほどの生活力さえ持ち合わせず、意地を張って回転木馬の仕事をやめてからは、一緒になったジュリーの稼ぎに頼る始末だ。 理不尽なほど、いきなり不幸せな新婚生活なのだが、ジュリーは けなげに、ビリーの心のうめきを受け止め続ける。 そういう 「静かな強さ」 がジュリーの身上(しんじょう)だ。 台詞も動きも少なく、舞台表現の場に恵まれてはいないジュリー。 難しい役どころだが、笹本玲奈さんは少ない動作のひとつひとつに 「気」 をこめている。 名手にかかれば文楽人形がほんの1寸の動きで心意気を示せるように、少ない動きのひとつひとつに心をこめた演技が光っていた。 浦井健治さんのビリーも 「困ったちゃん」 ぶりに、わざとらしさがない。 じっさいにこういう男がいたらとても許せない存在だが、浦井さんのビリーは心にすっと入ってくる。 そのビリーが命を落とし、星の世界から1日だけ地上に降りていいと言われる。 死んでから15年後だ。娘も成長している。 てっきり、15歳になったビリーとジュリーの娘・ルイーズをも、笹本玲奈さんが演じるのかと思ったら、これは玉城晴香(たまき・はるか)さんがすてきなバレエを見せてくれた。 苦労して娘ルイーズを育て、30代半ばとなったジュリーとして笹本玲奈さんが舞台に立ち現れるとき、サッと空気が変わった。 ジュリーがきりりと大きく見えた。 「ウーマン・イン・ホワイト」 で30代のマリアンをみごとに演じた藝歴がしっかりと生きていた。 * 「回転木馬」 のポスターや宣伝ビラは、役者さんたちが木馬にのってメルヘンな空間に踊る趣向なのだけど、実際の舞台に木馬は登場しない。 天井から下がるランプだけで木馬を表わす、能楽のような演出。心憎い。 ストーリーには、ジュリー & ビリー と対照的な、 キャリー & イーノック という堅実で明るいペアが出てきて、状況の殺伐としたところをうまく救ってくれる。 さすがはミュージカルの古典だ。 はいだ しょうこ さんと坂元健児さんの演を、安心して見ていられた。 * じつは2月22日に 笹本・浦井・はいだ・坂元の 歌 + トーク のイベントがありまして、それに参加したのも親近感の一因です。 劇場公演を観た3月29日の昼の部は、終演後 特別にロビーで笹本玲奈さんのトーク・イベントがありました。 劇場入場後の抽選による参加でしたが、ラッキーにも笹本さんの動物好きのお話など聞くことができました。 今度わたしが出す本には、ホリプロの許可ももらってそのときの笹本トークを披瀝してみたいです。 * じつは初日にファン有志一同で、笹本玲奈さんに花を贈りました。 企画に燃えるファンの方が 「回転木馬」 にちなんで魔法の馬車スタイルの花器を特注。 劇場ロビー、プログラム売場のすぐそばに飾っていただきました。 マネージャーさん、ありがとうございます。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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