カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
3年前、平成18年6月8日 (木) の夕方6時半開演の 「ミー&マイガール」の帝劇チケットが手元に残っている。
1階U列17番。 イギリスで見たことのあった Me and My Girl だけど、日本語版って、いったいどんなふうになるの? と興味半分で仕事帰りに買った当日券だった。 当時は、笹本玲奈さんや井上芳雄さんのことは名前すら知らなかった。 俳優さんの声量にも、ただただ感心していた。 小さなワイヤレスマイクが使われていることすら知らなかった。 わずか3年前だけど、すべてが遠い昔のように思える。 「ミー&マイガール」 で、ぷちっとスイッチが入ってから、週1回は劇場に行くようになった。 ブログにも劇評が増える。 今月、帝劇で再演。いっきに祝祭の広場が戻ってきた。 毎日見てもいい! と思った3年前の気分も、また戻ってきた。 「ミー&マイガール」 再演 @ 帝国劇場(6月3日~28日) 再演でいちばん進化していたのが、主役のビルを演じる井上芳雄さん。 3年のインターバルで不思議な発酵が起きて、ビルが貴族界で下町の俗っぽさを炸裂させるシーンも、流れるような自然さだ。 3年前だってけっして悪くなかったのだが、今から思えばずいぶんムリをしていたのだなぁと、今回の再演を見て思った。 それくらい、再演は良くなっていた。 井上さん、笹本さん、涼風さん それぞれに、小道具の使い方やスカートの持ち上げ方など、ちょっとした身振りにもコミカルな演出がパワーアップしていた。 3年前の 「ミー・マイ」 で沈着重厚なジョン卿を演じてくださった村井国夫さんは、今回は 「夏の夜の夢」 公演とスケジュールが重なり、シェークスピア劇のほうをお選びになった。 今回の、一癖もふた癖もあるジョン卿は、草刈正雄さん。 ジョン卿登場の場面など、厭味なほど意地悪げな役作りで、村井さんのジョン卿とはずいぶん違う。 ところが草刈さんのジョン卿は、やや軽薄な分、場面が変わるごとにだんだん人間味がにじみ出てくる感じで、これが意外に面白い。 こんな演じ方もあるのかと、おどろいた。 * Me and My Girl は昭和63年10月17日にロンドンの Royal Adelphi Theatre で観た。(そのときのチケットをCDの小冊子のなかに挟んで、とってある。) 北京駐在員だったころだ。 「ミュージカルって、なんて楽しいんだ!」 でも、40代後半になるまで、とにかく仕事がせわしかった。 いつ出張になるか、先の予定がまったく立たない身だったから、1ヶ月先の演劇のチケットを予約するなんて狂気の沙汰だった。 そんな、せわしかった頃が、遠い昔のように思える。 * さて、ごひいきの笹本玲奈さん、今回は、深い思いをこめて歌った「スマイル! スマイル!」 (Take It on the Chin) が、泣けそうなくらいよかった。 笹本さんを3年前に見たとき、平成18年6月9日のブログ に書いた。 ≪主演の笹本玲奈はもう、はじけていて、 彼女を見ているだけで、しあわせになれる。≫ 3年前は、ぴちぴちとした初恋のサリーだった。「もしもハートをとられたら」(Once You Lose Your Heart) の歌そのもののサリー。 「スマイル! スマイル!」 は深く愛する人のためを思ってあえて身を引く決意をし、でも明るく振舞うんだ! と語るせつない曲で、じつは歌うのがとても むずかしい。 曲も歌詞も振付もけっして悲しみを表現してはいないのに、心をしぼるほど寂しい気持ちがにじみ出なければいけない。 3年前の公演の初恋サリーにこれを求めるのは酷だった。 でも、今回の 「スマイル! スマイル!」 には、それなりに人生の哀歓も経てきたサリーが、またも かなわなかった恋をいつくしむ気持ちがこめられていた。 プログラムに載っている鼎談で、笹本玲奈さんがこんなことを言っている。 ≪ビルとサリーのカップルの雰囲気は、今回少し変化するんじゃないかなって思ってます。 前回は、まるで初恋のように、若さゆえの勢いで突っ走っているようなところがあったんです。 でも今回は、3年経って私も年齢を重ねた分、 “お互いにいろんな恋愛をしてきた中で最終的に出会った同士がビルとサリーだったんだ” っていう風にした方が、より説得力が出るのかなって。≫ その役作り、成功していた。 昭和63年にロンドンで観た Me And My Girl で、サリーを演じた女優さんはけっこう歳がいっているように見えた。 40歳くらいに見えた。 サリーは、30歳前半くらいに設定しても十分成立するし、そちらのほうが女性のかわいい気持ちがいっそう浮き立つかもしれない。 笹本さんのサリーの進化・深化をあと10年くらい観ていたい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jun 12, 2009 08:09:59 AM
コメント(0) | コメントを書く
[映画・演劇(とりわけミュージカル)評] カテゴリの最新記事
|
|