カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
帝劇公演の楽しさがいっぱい詰まっている。平成21年6月の公演のライブ版。
開幕前の序曲 (オーバーチュア) からして、いい。 大太鼓がなってきらびやかなスタート。期待感をじわじわぞくぞく高める前奏のあと、はじけるように 「ランベス・ウォーク」 のメロディーが始まる。 陽気な指揮者の塩田明弘さんが指揮台でぴょんと飛び跳ねるようすが目にうかぶ。 そのあと、曲は一転して夜の気分の甘美なサックスの「ミー&マイガール」に移り、「スマイル!スマイル!」 を軽快に、「イングリッシュ・ジェントルマン」 を勇壮に奏でたところで、リッチな人びとの郊外行きの場面につなげる。 この序曲を聴いただけでハッピーになれる。 平成20年の宝塚歌劇月組公演のCDを聴いてみると、序曲の構成がまるで違っていた。 短いファンファーレの後、ゆったりした 「ミー&マイガール」 1曲で、あっさりまとめていた。 ロンドン版とブロードウェイ版の序曲を聞いてみると、どちらも構成は同じで、前奏に続けてまず軽やかな Thinking Of No-One But Me (「わたしさえ良ければ」) が来る。 そのあと Me And My Girl、Leaning On A Lamppost (「街灯の下で」)、The Lambeth Walk と、劇中の演奏のままにカタログ的に並べた感じ。 帝劇版の序曲の、ぞくぞくわくわくさせる構成は、東宝のオリジナルだったようだ。 他のヴァージョンより、帝劇版が断然いい。 こういうことも、CDが出てみないと比べられなかった。 * ライブ版CDを聞くと、舞台の魔力が役者さんのちからを 120%引き出してくれるから感動が深まるのだと気づく。 笹本玲奈さん演ずるサリーの歌う 「ミー&マイガール」 は、舞台の動きがキュルキュル伝わる弾けぶりで、気合の入り方がライブ版ならでは。 「もしもハートをとられたら」 は、わずか3分半の歌に1冊の小説がつまっている。 心情に日が差したり翳(かげ)ったり、力強い一言のあと切なさがこもったり。 デリケートな思いをじっくり聴かせてくれる。 こころのなかで泣きながら顔は笑って歌う 「スマイル! スマイル!」 も、複雑な心の渦が感じられる歌いぶり。 最後のひとくだり「ぐっと顎を引き、前を見つめて」のあたりで、うっと泣き出しそうになる空気もこめた。 地道な役作りが、歌のちからを高めている。 宝塚版のサリーは彩乃かなみさんが演じていて、歌もうつくしいのだけど、宝塚のルールで女性役はファルセット (裏声) で歌うため (地声で歌うと男性役と区別がつかなくなってしまうからね) 不必要なほどかわいいサリーになってしまった。 宝塚版のすばらしいところは、主演でビリーを演じた瀬奈じゅんさんの意気。 張りのある声に、気っ風(きっぷ)のよさが加わると、すがすがしくも美しい。 * 帝劇版CDでうれしいのは、劇の最後の山場のサリー登場、ビリーとの再会のシーンのせりふ劇を収録してくれたこと。 うれし涙に包まれるこの素敵な場面を1枚もののCDにあえて含めてくれたところに、この作品へCD編集者が寄せた愛を感じてしまう。 帝劇での再々演は2年後だろうか、3年後だろうか。 あと1回は、井上芳雄・笹本玲奈のペアで行ってほしい。 そして5年後の再々再演、ぼくがプロデューサーなら、田代万里生・平田愛咲(あずさ) ペアを考える。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Oct 17, 2009 09:40:40 PM
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