カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
男と女の愛のかたち。
星島亜紀 (小島 聖さん) との愛は、ストライクゾーンど真ん中の剛速球。 瀬尾由加子 (中村ゆりさん) との愛は、ストライクゾーンという概念が雲散霧消する変化球。 令子 (西牟田 恵さん) との愛は、いたわりを受けながらとにかく9回まで投げる球。 3つの愛のかたちを絶妙に切り取った宮本輝の原作小説が、舞台をあらかじめ想定して書かれたかと思えるほど、原作の心を移しきった公演だった。 おととしの初演の感想を 平成19年7月29日に書いている。 「<新たなクラシック>『錦繍』 by ジョン・ケアード+鹿賀丈史」 公演を観たあとすぐ、原作小説を読んだ。 再演は展開がスピーディーになった。 主役の二人の独白のほとんどを、直立する助演の役者さんたちが 「群読」 形式で語り継ぐ。 原作小説は、かつての妻と夫が交わす長文の手紙文の形をとっていて、そのままシナリオ化すると、主演俳優の二人の独白がものすごい量になる。 ことに主役の鹿賀丈史さんには大きな負担になっていたと聞く。 前回もごく一部は群読形式を入れて負担の分散を図っていたが、今回、独白はほとんどを群読で処理した。 結果として舞台上の10人の役者さんたちの出番がバランスして、上演が終わるころには観る者の心のなかに10人それぞれがしっかりと居場所を得て、こころよい。 * 清水幹生さんが、名曲喫茶モーツァルトの主人になりきって、人生の円熟が生む 「軽み」 の味わい深さを表現してくれた。 舞台光景を何度も反芻したくなる。 反芻するのがおそろしいくらい美しかったのが、中村ゆりさん演じる3人の女性。 はからずも男の心を溶かし堕してしまう役どころ。 カーテンコールで一礼する中村ゆりさんは街をあるく普通の女性に見えたが、舞台でスイッチが入った途端、いっしょにどこまでも堕ちてしまいたくなる若々しい妖艶さをまとう。 「ロミオとジュリエット」 のジュリエット役を、いつか舞台でぜひやってもらいたい。 小島 聖さん演じる星島亜紀という役はストライクゾーンど真ん中の女で、じつは特徴が出しにくいキャラクターではないか。 下手な役者さんが演じれば平板になってしまうが、小島さんには大女優の余裕を感じた。 めりはりのつけ方が、さすが。 鹿賀丈史さんは、前回に比べて台詞が大幅に減った。 あの名調子をもっと聞きたい気もしたが、舞台に立っていただくだけでそこに鋭角が生まれる鹿賀さんならではの気迫に酔った。 時間がゆるせば、もう1度観たい舞台。 (11月13日まで天王洲の銀河劇場で。その後、水戸、札幌、北見、士別、函館、新潟、七尾、能美、大阪で上演。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Nov 11, 2009 08:22:43 AM
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