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Jan 19, 2010
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平成19年11~12月の初演につづき、同じ青山劇場で再演。
さる1月16日昼の部をみて深い感動をいただいた。きょう19日の夜の部をまた観にゆく。

再演は、ややツルンとした感じもした。出演者が入れ替わって無難にまとまりすぎた気がする。

特筆して褒めたいのは子役の石丸椎菜(しいな)さん。中学3年生だ。
初演ではダブルキャストの一人だったが、今回の再演では役を独りでつとめた。
村の少女として舞台中央で独唱する澄んだ声は天性のもの。これから大きく育ってゆくのを見せてもらうのが楽しみだ。

この劇の最大の山場は、第2幕後半の精神病院での出来事だが、場面が近づくにつれて観ているぼくのからだが勝手にじんじんと震えだした。
何と、ちからのある劇だろう。

ちからのある劇は、予感だけでひとを震わせる。「ミス・サイゴン」 の 「命をあげよう」 など、前奏の弦楽器が数秒流れただけで、からだに電撃が走ってしまう。



笹本玲奈さんの 「オール・フォー・ローラ (All For Laura)」 は初演のあと、彼女のコンサートやイベントでも聴かせていただいたが、やはり舞台の歌は感情移入の深さがちがう。
自責の念に打ちひしがれながら突っ伏しての絶唱; やがて天に身を差し出すように立ち上がり、愛する妹を守り抜く決意を歌い上げる。

緻密につくられた劇の展開が、歌にパワーを与えてくれる。
ミュージカルは、この瞬間を体験するためにあるのだなぁと思いながら、涙がとまらなかった。

笹本玲奈さんが快活で饒舌なマリアンとして、田代万里生さん演ずる画家ウォルターを迎える 「どうぞよろしく (I Hope You’ll Like It Here)」 も大好きなナンバー。

家族構成をコミカルに紹介しつつ、せりふ劇からミュージカルへと観客の心を導入する歌。
笹本さんは、せりふを言う口調に自然にメロディーがついてきたかのように歌ってみせた。この軽快さがいい。



観るたびに演出が変わるのが、妹ローラの死をフォスコ伯爵に伝えられたときのマリアンの反応ぶり。
長く床に臥(ふ)し夢にうなされて目覚め、やおら言われる衝撃のことばをどう受けとめるか。

ほんとうに悲しいことが起きたとき、ひとは泣き叫びうろたえるのではなく、悲哀を消化しきれず気力を失い鎮まりこんでしまう。
そういう演出が、今回の舞台だった。

マリアンの悲しみはひたすら沈潜したまま、妹ローラの埋葬の日を迎える。
パーシヴァル卿の白々しい悲しがりの歌のあと、はじめてマリアンは悲しみと怒りと闘争心を爆発させる。

抑えに抑えられた感情がここで一気に噴き出すという演出は、たしかに理屈に合っているが、しかしここは初演の演出のほうがよかったのではないか。

英語版CDを聴くと、マリアンを演じる Maria Friedman さんはフォスコ伯爵から
「まことにお伝えしにくいことがあるのですが、じつは妹さんが…」
と言われたところで、早くも息をのんでいる。
そして妹の死を告げられた瞬間に取り乱す。

何が起こったか聞いてもいないのに息をのむというのはリアリズムに反するが、それに先立ちうなされた悪夢や、妹の夢遊病への日頃からの懸念が、マリアンの素早い反応を引き出したとも言える。

リアリズムに反する展開に、演劇のちからが表れることもある。

初演を2度観たが、うち1度目 (平成19年11月18日) はごく普通の演出だった。
妹の死を伝えられた瞬間にマリアンは取り乱し、嘆き泣く。

2度目に観たとき (平成19年11月24日) の演出では、妹の死を伝えられてしばらく、マリアンは
「え?」
とひとこと言って、考えに沈みこむ。
懸命に、すこしずつ、理解をこえた悲しい出来事に追いつこうとする笹本玲奈さんがいた。
短く長い間のあと、笹本さんは泣き崩れる。

やはり、この演出がいちばんだと思う。
われわれもまたローラの死を、舞台の人と一体になって悲しみたい。
ここは舞台のマリアンにも泣き崩れてもらいたいのだけど。



今回フォスコ伯爵を演じた岡 幸二郎さんは、このひとが歌うかぎり舞台はぜったい大丈夫と確信させてくれるミュージカル俳優。

今回も文句のつけどころがないが、それでもやはり初演の上條恒彦さんに軍配を挙げてしまう。

第2幕後半に、フォスコ伯爵役にはたいへんおいしい場面がある。
伯爵を誘惑する半分捨て身のマリアンに、フォスコ役の男性はこれでもかとホントにホントのキスの雨を降らせる。
マリアンの困惑の表情と、キスされた唇をぬぐうようすも笑えた。
これが上條さんのフォスコ伯爵。

岡 幸二郎さんは実年齢がマリアン役に近すぎて (?) 、ホントのキスの雨とはいかなくなったようだ。
女性が顔を後ろに向けて唇を合わせないキスをするという、あの平凡なラブシーンになってしまった。


初演の女優さんで忘れられないのが、アン・キャスリックを演じた山本カナコさん。劇団☆新感線の出身。
狂女の演じ方に凄みがあった。狂女や娼婦の演じがうまい舞台は、ぜったい成功する。

今回の再演でアン・キャスリックを演じた和音美桜(かずね・みおう)さんのアンは、狂女というよりむしろ ずいぶん心優しいアンだった。ローラと同じような女性が、野に追われてしまったというイメージ。
宝塚出身だけあって高音もよく伸びていた。

ローラ役の大和田美帆さんと、舞台上の見かけがそっくりだったところもポイントだった。ローラとアンが瓜二つであることが、この劇のプロットの肝だから。

それに比べると、初演の山本カナコさんのアンは神田沙也加さんのローラにあまり似ていなかった。気迫の方向性の差や、年齢の差が出てしまった。

だから、初演の配役はプロットを成立させるという観点からは成功していなかったのだが、観ているぼくからすれば初演のほうが山本さんと神田さんのそれぞれの個性を存分に楽しめるいい舞台だった。


今回 貧乏な画家ウォルターを演じた田代万里生(まりお)さんは見かけが童顔で、30代前半という設定のマリアン (笹本さんがまたみごとに30代前半になりきっているのである) が心惹かれるにはあまりに若すぎて見える。

そういう意味で、舞台を見るぼくの眼は抵抗感を訴えていたのだが (つまり初演の別所哲也さんのほうがよかったという意味で)、しかしぼくのからだは田代さんの真摯(しんし)で端正な歌声にじんじんと反応した。
好感度の高い俳優さん。きっと大成されると思う。


ミュージカルの役で、こいつ以上の悪役はちょっと想像がつかないパーシヴァル・グライド卿。

初演では、石川 禅さんが藝達者なところを見せてくれた。
ぼくは石川 禅さんの大ファンなので、石川さんが再演から外れたのは残念だった。

再演で演じたのは韓国人の朴東河(ぼく・とうが)さん。
成年に達してから学んだ日本語で、これだけ曲者の役をみごとに演じる実力を賞賛したい。

パーシヴァル卿の胡散臭い 「陰」 を随所にほのめかす、「気」 のちからを感じた。
偏執狂のように賭け事にのめりこむかと思えば、瞬間湯沸し器のように激情に走るパーシヴァル卿。その性格を存分に表現する気迫があった。

(1月24日まで青山劇場で。16日の土曜日昼の部では後ろのほうに若干空席あり。ぜひお運びください。1月30~31日には大阪のシアター BRAVA! でも公演あり。)

【観劇マナー】
上演中、
コンビニのビニール袋ノド飴の小袋のシャカシャカ音は、劇場じゅうに響きます。
ビニール袋は手元に置かず足元に。ノド飴は開演前に口に含む。これが大事なマナーです。





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最終更新日  Jan 19, 2010 02:01:47 PM
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