カテゴリ:映画・演劇(とりわけミュージカル)評
劇団 「わらび座」 による鉄腕アトムのミュージカル公演がはじまりました。
「アトム」。 6月27日までは新宿文化センターで。 そのあと、多摩市、入間市、藤沢市、佐倉市など関東公演が続き、再来年の平成24年3月まで全国各地で公演の予定です。 ゴレンジャーのショーではありませんよ。いわゆるファミリーミュージカルではないのです。 アトムやウランちゃんの着ぐるみは、なし。人間型ロボットの印は、左手に巻かれたメタリックな帯だけ。 アトムやコバルト、ウランちゃんの時代は、すでに過去のもの。 10万馬力の高出力ロボットが、悪者の指示にも従順にこたえて破壊的な結果をもたらすことを恐れた政府は、ロボットの筋力を人間以下にとどめるよう規制しだした。 この規制を進めたのは、神楽坂(かぐらざか)町子。お茶の水博士のさいごの弟子だった。 断腸の思いで、みずから鉄腕アトムを解体した……はずだったが、アトムの体は神楽坂邸に厳重保管されていた。 そしてアトムの心である電子頭脳は、筋力が人間以下の、あるロボットに埋め込まれていて…… と、「続 アトム」 ともいうべきストーリーです。 ■ 手塚作品のキモとなる問いかけの数々 ■ 手塚治虫さんが描いた 「鉄腕アトム」 は、単なる勧善懲悪ものではなかった。 人間とロボットの心の交流は、どこまで可能なのか。 人間への絶対服従を強いられるロボットが人間から理不尽な扱いを受けるとき、その悲劇はいかにして正されるべきなのか。 2010年の我々も考え込んでしまう問いかけが、漫画 「鉄腕アトム」 には埋め込まれている。 まさにそのキモの部分を中心に据えたのが、今回のわらび座のミュージカル 「アトム」。 だから、メッセージが深い。 ロボットたちが雇い主や通行人から受ける理不尽の数々。 癒しを求めて、偽りの口実をつくって夜な夜な集まって音楽パーティーを開く、人間型ロボットたちの姿からはじまるステージ。 親からの束縛に苦しむ令嬢マリアが、介護ロボットのアズリに恋をする。 人生に迷う人を力づけるセリフが星のように光る。 手塚作品に必ず登場する悪役科学者。 このミュージカルでは、スーラという一見ダンディな男が、ロボットの反乱をあおる狂言回しを演じ、自分が違法改造したロボットから報いを受ける。 ■ 碓井涼子さんからの手紙 ■ 「アトム」 公演をぜひ観てくださいと、じつは出演者の方から手紙をいただいた。 新宿公演ではちょいワルのエミを演じる 碓井(うすい)涼子さんから。 碓井さんには、手紙とともにお気に入りのCDをお送りしたことがあった。 わたしの生まれ故郷の松山市近郊にある 「坊っちゃん劇場」 で去年、ミュージカル 「鶴姫伝説」 の長期公演があり、富山県出身の碓井さんが主演女優をみごとに務めていた。 愛媛県東温市の坊っちゃん劇場は、松山市駅から電車でゴトゴトと30分、周囲に田んぼしかないショッピングセンターの一角にある。 道後温泉からも離れた辺鄙なところだが、松山周辺の学校や福祉施設などから上手に集客し、営業的には成功している劇場だ。 「新妻聖子さんみたいなパワーがあるなぁ。レ・ミゼラブル だってこなせるひとだ」 碓井さんの演技と歌への、わたしの感想。 そんな碓井さんが、わが故郷の人々にみごとな舞台を観せてくださったことに、感謝の気持ちでいっぱいだった。 ■ 進化へ GO! ■ 新宿文化センターの公演が終わったあと、わらび座の役者の皆さんがロビーに出てきてくださった。 思いがけず、碓井涼子さんにもご挨拶できた。碓井さんのはじける笑顔に、わたしも 「ブログやメルマガでご紹介します」 と、お約束したのである。 * わらび座公演の音楽は、生演奏ではなくオーケストラの録音を使っているが、満足な出来ばえ。ここぞというシーンでは、からだに電気が走った。 オリジナルミュージカルなのだが、音楽にところどころ、ミュージカル 「エリザベート」 の節回しを拝借したように聞こえる箇所がある。将来的には修正がほしい。 役者さんのなかでは、神楽坂町子を演じた椿 千代さんが、宝塚女優のような堂々たる歌唱力を発揮していたし、悪徳科学者スーラを演じた速水けんたろうさんは、ベテランの沢木 順さんを彷彿とさせた。(キャストは公演ごとに替わることがあります。) いい材料が揃っているのだが、アンサンブルの振付けやセリフの一部にわざとらしさが残る。2年間の全国公演の間に 「進化」 を遂げることでしょう。 <わらび座「アトム」ウェブサイト> http://www.warabi.jp/atom/special/ (音声入り) http://www.warabi.jp/atom/tezuka.html (解説が充実) 6月19~27日の新宿文化センター公演と、7月18~19日の兵庫県立藝術文化センター公演は、配役にもとりわけ力が入っています。 7月3日のパルテノン多摩公演では碓井涼子さんが主役の令嬢マリアを演じることになっていて、わたしもまた観にいくつもりです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Jun 21, 2010 11:09:09 PM
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