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Jan 22, 2015
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カテゴリ:中 国 界
以下の時事評論は、1月21日7時に「国際派時事コラム」として配信したものです。無料配信の読者登録は、こちらでどうぞ:
http://archive.mag2.com/0000063858/index.html
 


 伊藤忠商事がタイ財閥CPグループと折半出資で共同投資会社CTB 社をつくり、このCTB社が中国の国有企業CITIC社(香港上場企業)に合計で1兆2千億円を投入する。
 2段階に分けて実施し、順調に今年の10月に完了した暁には、CTB社がCITIC社の20%株主になる。(この「20%」という数字が非常に重要で、のちほど解説する。)

 この取引について分析してみたい。参考としたのは伊藤忠が1月20日に発表した公開情報のみである:
<ニュースリリース>
http://www.itochu.co.jp/ja/news/files/2015/pdf/news_150120.pdf
<図解説明資料>
http://www.itochu.co.jp/ja/news/files/2015/pdf/ITC150120_presentation_j.pdf
<より詳しい資料>
http://www.itochu.co.jp/ja/news/files/2015/pdf/ITC150120_2_j.pdf


■ 伊藤忠の景色が変わる ■

 伊藤忠の資料によればCITIC社は、2013年度の連結純利益が7,300億円の会社である。少なくともこの収益水準は最低限維持されると考えれば、20%株主である合弁投資会社CTB社の持分収益は7,300億円の20%で 1,460億円である。
 伊藤忠は CTB 社の50%株主だから、1,460億円の50%である730億円が伊藤忠分の持分収益となる。

 伊藤忠がCITIC社へ投じた6,000億円は銀行借入だから、金利がコストとなる。投資を管理し、さらなる事業展開を図るための営業コストもある。その他、関連する税金もコストとなる。 
 730億円から、それらのコストを税後ベースで差し引いたものが、伊藤忠の連結純利益の純増分となる。

 伊藤忠のこれまでの収益規模は平成26年3月期で3,100億円(連結当期純利益)だから、CITIC社からの莫大な持分収益は会社の景色を変えるほどのインパクトがある。

■ 持分収益と配当金の違い ■

 ところで、先ほど「730億円が伊藤忠分の持分収益となる」と書いたが、伊藤忠は730億円のキャッシュをCITIC社から払ってもらえるのだろうか。
 そうではない。
実際に払ってもらえる配当金は、CITICの過去の実績に基づけばその約20%の150億円ほどである。

 あれ?

 ビジネスマンならふつうに知っているが一般のかたは あまり知らないことを、ひとつ解説しておこう。
 実業界には会計上のルールがある。 
 A社がB社に20%以上出資したとき、A社はB社の純利益に出資比率を掛けた金額を自動的にA社の収益として帳簿に記すことができる。たとえB社から1円の配当も受けていなくても。こういう関係を「B社はA社の持分法適用会社である」という。

 CITIC社はCTB社の持分法適用会社であり、CTB社は伊藤忠の持分法適用会社だ。だから、CITIC 社の連結純利益に伊藤忠の出資比率を掛けた金額を、伊藤忠は自動的に伊藤忠の持分収益として帳簿に記すことができる。

 いっぽう、もしA社がB社に出資した比率が20%未満だったら、A社が計上できる収益はB社からの配当金のキャッシュ額のみとなる。

■ CITIC社の配当性向は20% ■

 伊藤忠にCITIC社からどのくらいキャッシュが入ってくるかは、CITIC社の「配当性向」によって決まる。
 さきほど掲げた伊藤忠の発表資料に、CITIC社の最近3年間の1株当たり当期連結純利益と 1株あたり配当金の金額が出ている。配当金を連結当期純利益で割ったものが配当性向。

 資料に基づき計算すると、平成23年末が17.8%、24年末が23.6%、25年末が18.0%だ。
 配当性向をざっくり20%とすれば、CITIC社は収益の20%をキャッシュとして中国政府や機関投資家、伊藤忠などの株主に還元し、収益の80%は再投資に回しているということになる。

 これは、事業展開が成功して株価アップにつながれば、好循環といえる。逆に振れれば、伊藤忠にとっては巨額の投資金が中国で塩漬けになるということ。

■ 投資回収の早道は?■

 おさらいすると、伊藤忠が投じる6,000億円は、さっそく大きな会計上の利益を生み始めるものの、実際の投資回収は遅々としたものとなる。
 保守的な計算によれば伊藤忠の持分収益は730億円で、そのうち配当金としてキャッシュで受け取るのは150億円のみ。差額の580億円はまったくの帳簿上の利益であり、伊藤忠の帳簿上でCITIC社の簿価がどんどん積み上がっていく。財務担当者は頭が痛かろう。

 伊藤忠とタイ財閥の共同投資会社CTB社は20%以上の出資比率を維持し続けなければならない。CITIC 社の株を売るわけにはいかない。
 なぜなら、もしCTB社からCITIC社への出資比率が20%未満となると、会計上のルールにより、収益認識できるのが配当金のキャッシュのみとなってしまうからだ。CTB社の会計上の収益が激減する。それは何としても避ける必要がある。

 では伊藤忠が投資を回収する手っ取り早い道は何か。わたしの読みは、CTB 社の株の一部をプレミアムつきで売ることだ。伊藤忠は共同投資会社CTB社の株を50%所有するが、そのうち20~25%分を他社に売ってキャッシュを得ればよい。
 うまく売却先が見つかればよいが。

■ 中国政府のさじ加減 ■

 会計上の収益とキャッシュ収益の差が大きいことに驚いた方もおられようが、決して伊藤忠が特殊なことをしているわけではない。普通の投資行為である。どうか誤解なきよう。

 CITIC 社は現状77.9%が中国政府(財政部)の出資であり、伊藤忠・タイ財閥の出資参画後も中国政府はCITIC社に対して62.3%の出資比率だ。すべては中国政府の掌の上。CITIC 社の配当性向は、中国政府のさじ加減ひとつとなる。

 中国政府とのこのような接点は、伊藤忠の強みともなろうし、局面によっては弱みとなる。後者とならねばよいがと願うばかりである。
 中国特有の風土からくるコンプライアンス上のトラブルに巻き込まれなければよいがと、これまた祈るばかりだ。

 本篇はあくまで分析と解説であり、批判を目的としたものではない。ご意見やご指摘をいただければ謙虚に拝読したい。
 配信コラム主宰・泉ユキヲのアドレスは t-izumi@f5.dion.ne.jp





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最終更新日  Jan 22, 2015 11:21:38 PM
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