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カテゴリ:コラム
14日、『明日を創る人々』という映画をフィルムセンターで見て来ました。
この映画は東宝争議のあった1946年のメーデーの翌日公開するために急遽作られた組合映画です。黒澤明は演出の三人に名を連ねていますが、この作品は自分の作品として認めていません。 ただ、僕が見た限り、群集シーンや撮影所のシーン(高峰秀子と藤田進が本人役で出演)に黒澤らしき演出の特徴が見られましたし(効果的な移動撮影が多々あった)、黒澤ファンは見るべき価値のある映画かと思います。(黒澤がエッセイで披露した、「綺麗な夕焼けだなあ」「馬鹿、あれは朝焼けだぜ」という徹夜明けの撮影所で実際にあったというセリフが使われていました。) この映画に関しては『天皇と接吻』(平野共余子著)という研究書に詳しいのですが、その本に書いてあったラストと微妙に映画のラストは違いました。映画では、主人公たる家族(これは任意に抽出された家族なので説得力というか面白みはあまりない?)がメーデーの前日の夜、会話をしたあと、メーデーのイメージで終わります。 その家族の会話で母親の「私が参加するとしたら井戸端組合かね」という映画のラストを締めるセリフが面白かったと思います。 他には、資本家も手をつないでいるのだから、われわれもそれ以上に手をつながなければといった内容のセリフがよかったと思います。また、合唱団を主役にしていたので、善くも悪くもプラカードを掲げたような作品にはなっていなかったと思います(シナリオが東宝コンツェルンを前提としている点や、多分実際にあった出来事なのでしょうが組合員の子供の死を無理にドラマに取り入れている点、組合運動に戦時中の国民総動員のイメージを引きずっている点、「敵」というよりも「資本家」の描写が弱いという点、また上記の母親の会話に見られるコーポラティブとユニオンの縦横の関係性の把握が弱いところなどが欠点かと思います。) プロ野球合併問題と考えあわせても奇妙なリアリティーがある映画でしたが、コアな映画ファンはこうした見方をしないかも知れません。ブレヒトの『クーレ・ワンペ』など同種の映画との歴史的比較検討がなされていないからだと思います。 黒澤は、確かにこの映画のあと、撮影現場で部所を越えて互いに手伝いあえないようなユニオンに否定的になりました。ただ、この映画に懲りて共同監督をやろうとしなかったかというとそうではありません。例えば銀行からの出資を募った『どら平太』は市川昆、木下恵介監督らとの共同監督を前提に書かれたものでした(のちに市川監督が映画化)。 『明日~』は、10月2日にもう一度上映されるようです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2004年09月16日 23時36分38秒
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