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関本洋司

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2004年10月27日
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テーマ:戦争反対(1190)
カテゴリ:コラム
 石川達三は1938年、日中戦争及び南京陥落を描いた小説『生きている兵隊』を「中央公論」に発表して発禁処分にあったが、この作品は現在も文庫(中公文庫)で読めるし、読みごたえのある傑作として歴史的に残っている。
 中国語でもこの作品は『未死的兵隊』等として翻訳されているが同じ南京大虐殺を題材として扱った中国の『南京1937』よりもこちらの方がルポルタージュとしても小説作品としても優れているかも知れない。
 特に冒頭部分の描写及び、セリフが素晴らしい。

「ニイ!」と笠原伍長は怒鳴った。しかし訊問するだけの支那語は知らなかった。彼は鼻水をすすり上げながら部下に言った。
「お前な、本部の通訳さんを呼んで来い」

 こうしたちょっとした描写だけで、中国人への横暴で疑心暗鬼な態度、言葉の断絶、さらに自らの所属する組織構造までもが看破されているのだ。
 また、石川は発禁処分にあった際の警視庁の取り調べでこう語っている。

「国民は出征兵士を神様の様に思い、我が軍が占領した土地にはたちまちにして楽土が建設され、支那民衆もこれに協力しているが如く考えているが、戦争とは左様な長閑なものではなく、戦争というものの真実を国民に知らせることが、真に国民をして非常時を認識せしめ、この時局に対して確乎たる態度を採らしむる為に本当に必要だと信じておりました。」

 小説の中で日本の兵士がスパイを殺すところなどは、作者は決して告発的な態度を取らず、ひとり一人の兵士の心理的な理由付けを忘れていないし、殺した後の兵士が抱えることになるPTSD(心的外傷後ストレス障害)を扱っているところなどは今日的に見ても新しいかも知れない。兵士たちが戦争や中国をめぐって議論する場面では、作者の観念小説作家としての資質もプラスに作用している。
 上記のことからも解るように石川達三は社会派作家というよりも実は観念小説の達人であり、この作品内で当時の兵隊の様々な思考を整理している面もあるので、そうした側面からもこの作品の再評価が望まれる。特に日中戦争を知らない若い人達にお薦めしたい。





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最終更新日  2004年10月27日 04時51分23秒
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