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関本洋司

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2004年10月29日
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テーマ:戦争反対(1190)
カテゴリ:コラム
 黒澤明がエイゼンシュテインの『イワン雷帝』第二部を見て色彩映画を撮る気になったことは有名だが、両者の共通点として、共にアメリカで映画を撮ろうとして果たせなかったことが挙げられる。
 エイゼンシュテインはズッテルの『黄金』、ドライサーの『アメリカの悲劇』などを企画し、黒澤は『暴走機関車』、『トラ・トラ・トラ』を企画した。
 すべて後になって他の映画監督によって映画化されているところにその企画の素晴らしさが証明されているが、他の監督が完成した作品からは、本来ありえた問題意識が失われているのも残念ながら共通している。

 黒澤作品はどちらも原シナリオが公開されている。特に『トラ・トラ・トラ』は、絵コンテと共に最近全貌が明らかになったという点で今回特に言及したいと思う(別冊キネマ旬報参照)。
 近年、真珠湾攻撃に関しては、アメリカ側が暗号を極秘で既に解読していて米国国民を参戦の意志で団結させるため、日本側の奇襲をわざと許したという説が一般的になっているが、黒澤のシナリオでは奇襲を知らせようとする情報グループの努力が徒労に終わる過程に焦点を当てられている。また、権力を(『イワン雷帝』のように)両義的に捉えている点も興味深い。
 日米両方の交互の描写は緻密だし、深刻な描写もあるが、ここでひとつだけシナリオにも書かれずに没になったギャグを紹介したい。
 それはアメリカの戦闘機が不時着し、ゴルフ場の芝を引き剥がしたところに「ターフはもとに戻して下さい」という看板があるというものだ(新潮社『黒澤明のいる風景』より)。

 『トラ・トラ・トラ』が撮影中止になった過程自体が徒労と言うべきものだが、黒澤版が完成していたら、日本人及びアメリカ人の太平洋戦争に対する考え方が変わっていたのではないかと思われるのでその撮影中止が悔やまれる。黒澤版が完成していたら、日米両国の不和の象徴(「リメンバー・パールハーバー」)が日米両国の協働作業の象徴に転化していただろうからだ。
 黒澤はその後、スピルバーグを仲介にアメリカ資本で映画を撮り(『夢』)、その後で(返す刀で?)『八月のラプソディー』という原爆を主題にした映画を撮ってアメリカ人を激怒させた。
 現在、アメリカの批評家、特にニューヨーカーに日本人が評価し切れなかった黒澤の『乱』を高く評価している人間が多いことと考えあわせると(黒澤は生前、アメリカの批評家に最近マルチカメラ方式がわかってきたようだと喜んでいた)、黒澤明の評価がアメリカそれ自体を写す鏡とさえ言える。





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最終更新日  2004年10月29日 00時02分25秒
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