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カテゴリ:杉山千佳(子育て環境研究所)
「筋の通った日本人」が好きなので、本を読む際も
「この人かな?」という好みの人の本を何冊も読む 傾向がある。 今は河合隼雄さんがマイブームで、『未来への記憶』 (岩波新書)という自伝のなかで、若かりし河合さん が、人形劇をやっていたことや、保育士さんや児童相 談所の人たちと交流することが多く、「こども」とも 切っても切れない縁になったというようなことが わかり、わくわくしたりした。 お兄さんの雅雄さんが結核を患ってずっと自宅療養が 続いたり、戦後の混乱期で希望の学校になかなか 入れなくて、何年もだぶっているのを読んで、 先日も学生さんたちと飲んだときに、 「河合隼雄さんもこうだから、みんなもそんなに 結論を急がなくてもいいんじゃないのかな?」 なんてことを言ったのだけど、 「河合隼雄って誰ですか?」 と口々に言われて「んまあ!」って気分になった。 とはいえ、わたしが本を読むようになったのは、 最近のことなので、 人生は、その気になれば、何度でもやりなおしが きくってことだと思うし、 そのときにどれぐらい自律できるかどうかって ことなんじゃないかな?と思う。 決めるのも選ぶのも、本人のことだから。 河合さんはアメリカに留学した後、スイスのユング 研究所に行くのだけど、周囲の人たちは、当時ユング なんて誰も知らないし、 日本に残って数年したらどうせ京大の先生になれる んだから、何も高いお金を払ってユングなんてわけ わからないものの研究なんかしなくてもいいんじゃ ないか?と、 河合さんのためを思って よかれと思って、 言うのだけど、 (親しかった兄弟たちは、みんな大賛成で、そんな ことは言わないんだけど) そんな誘惑にはまったくなびかないし、 そこで「将来」や「生活」を選んだりしないんだよね。 こういうのは、本当にすごいと思う。 マーケッターがいうみたいな、 「そのうちユングが来る」とか、 そんなあざとさもたぶんなかったと思うし、 純粋に、やりたかった、もっと勉強がしたかった、 世界が知りたかったんだろうな。 で、ユング研究所はあるものの、ユングはすでに 亡くなっていて、「それがよかった」と。 ユングは好きだけど、取り巻きの学者がユングを 崇め奉るのはどうかと思うというあたりの感覚が、 いいなと思う。 ユング研究所でいくつか重要なことを学ぶのだけど、 「日本にはまだ早い」と思って、何年も言わずに いたってことがすごくあったようだ。 これはたぶん、河合さんの直観なんだと思うけれど、 これもたいしたものだと、思う。 当時からもちろんあったんだろうけど、 日本に戻って、いろいろなことをやるうちに ご自分の立場や役割がみえてきて、そのなかで 「いま必要なのはこれかな?」と、 ユング研究所で学んだことを、日本風にアレンジして 差し出していく・・・というようなことをなさった んじゃないかと思う。 「時間」。 わたしたちはよく、点を線に、線を面にというけれど、 それだけだと、文字通り、平面的になっちゃって、 「時間」の経過が、意味をもってくるんだろうなと 思う。 じゃないと「生きる」ことにならないものね。 で、読み終えて、改めてすごいと思ったのは、 この本が、ユング研究所で分析家の資格をとるまでで 終わっていること。 帰国して、どうなったの?? 最初は誰にも理解してもらえず、苦労したんじゃ ないのかな?とか、思っちゃうんだけど、 それは、秘密。 著者と編集者の妙。 ずるーい で、河合さんの絶筆が『泣き虫ハアちゃん』だなんて。 これまた、ずるい。 でも、その本を読むのはもうちょっと先にして、 ほかの本を読みたいなと思っている。 わたしは以前、神戸須磨区で起きた事件で、 14歳の少年が逮捕されたという一報をテレビで 見たとき、激しく動揺して、泣き出してしまった ことがあった。 そんな人は多かったんじゃないかと思う。 日本中が、ざわざわと落ち着かなくて、 そんなとき、朝日新聞に河合さんのコメントが 出ていて 「大人は自分のやるべきことを今までどおり やっていたらいい」 みたいなことが書いてあって、 それにものすごく救われたことがあった。 うろ覚えなので、間違っているかもしれないと 思っていたけど、この前かった『考える人』の 追悼号にどなたかがその記事のことに触れて らしたので、ああ、わたしのほかにも読んだ人が いたんだと、思ったのだ。 そのうち手に入れて、どんなコメントだったのか 改めて確認したいのだけど、ご縁があれば、 再会できるだろう。 そのとき、 新聞ってのはこういうことができるのかとか、 コメンテーターってのは、 実は、こういう仕事なのかとか、 (皮肉をこめて書いています) メディアの力を(珍しく)頼もしく思えたんだけど、 そのとき、ああ、この人は、日本のカウンセラー なんだなと、思った。 たぶん、その直感は正しかったと思う。 そんなふうにして彼の本を読むと、また別の 味わいが出てくるので、これまたおもしろいな と、思う。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
February 10, 2008 11:21:22 AM
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