杉山です。

禅のことに関心をお持ちの人だったら、たぶん
ご存じの方も多いと思いますが、禅の教えを10枚の
図にした「十牛図」という有名な絵があります。

逃げ出した牛を探し求める牧人をたとえとして
「牛」すなわち「真の自己」を究明する禅の修行の
ありさまを示したもの、といわれています。

第一図　　　尋牛
　　　　　　牛小屋から逃げだした牛を探し求める。

第二図　　　見跡
　　　　　　もうみつからないとあきらめていたら、
　　　　　　牛の足跡らしきものを発見する。

第三図　　　見牛
　　　　　　岩の向こうに尻尾を出して隠れている牛を
　　　　　　発見する。

第四図　　　得牛
　　　　　　ついに牛をとらえることができたが、逃げ
　　　　　　出そうとする牛を自分のほうに引き寄せよ
　　　　　　うと格闘する。

第五図　　　牧牛
　　　　　　牧人の根気強さに負けて牛はおとなしくなる。
　　　　　　牛は二度と暴れることも逃げ出すこともない。

第六図　　　騎牛帰家
　　　　　　牛に乗って家に着く牧人。楽しげに横笛を
　　　　　　吹いている。

第七図　　　忘牛存人
　　　　　　家にたどり着き、牛を牛小屋に入れてほっと
　　　　　　した牧人はのんびりとうたたねを始める。

第八図　　　人牛倶忘
　　　　　　転寝をしていた牧人が突然いなくなる。
　　　　　　（絵もただの円、空白で表現）

第九図　　　返本還源
　　　　　　空の世界からふたたび自然が戻る。
　　　　　　そこには牧人の姿はなくただ自然のみ。

第十図　　　入廛垂手
　　　　　　牧人は再び人間の世界に立ち帰った。
　　　　　　人々が行き交う街の中で、迷える童子に
　　　　　　手を差し伸べている。


この絵のことを教えてくれたのは、ある著名な心臓外科医
で、取材の時に紹介してくださったのでした。

その時の私は、まじで、「牛を得て、笛を吹いて家に
戻る」で終わっていいんじゃないか？と、思っていました。

「それじゃあ、ダメなのよ。第十図までいかないと
　ダメなの」
と、納得するのに、数年を要しました。

ああでもない、こうでもない、ともがいているときに、
だいぶ忘れかけていた、くだんの先生のことと、
「十牛図」のことを思い出したのでした。
（参考文献『十牛図入門　新しい自分への道』横山紘一
　幻冬舎文庫）

・・・・・・・・・・・・・・

心臓外科などという、日々「いのち」のぎりぎりと対峙
している先生だからこそ、「十牛図」なんだと、思います。

思い返してみると、先日紹介したドクターといい、
診察室はもちろん、病院以外の場所で、
わたしにいろいろなことを教えてくださるドクターが、
わたしにはたくさんいることに気づきました。

「病気は見るけど病人は見ない」
なんて悪態をついたりもしてしまったのだけど、
そんなことはない。
彼らは、「究極の専門家」、「プロの癒し人」だと、
思ったのでした。

「杉山さんには、ちゃんとサポートが入ってる」
と言われ、

「チョイス」とか「セルフコーディネート」とかいう
こざかしいフレーズが一気に吹き飛んだ気がしました。
全部、自分で用意しているなんて、なんてゴウマンな
ことを思っていたのだろう。


直感的に、なぜか、
「ミクロ」が一番難しいことを、わたしは知っていた
のでしょう。
だから、「マクロ」だったら、何かできることがある
かもしれないと、思ったのだと思います。

でも、「ミクロ」ができないと、「マクロ」は無理。

わたしにできる「ミクロ」はなんだろう？

と言う前に、第七図「忘牛存人」の境地に達したい
わたしなのでした。