カテゴリ:日中時事
村上春樹さんが2012.9.28朝日新聞に寄稿したエッセー「安酒の酔いに似てる」を読みました。同じ尖閣諸島問題を書いても、作家の手にかかるとこんな風な表現になるのですね。
村上さんは、ここ二十年ばかりの間に「東アジア文化圏」が成熟し、音楽や文学や映画やテレビ番組が、自由に等価に交換され、多くの人々の手に取られ、楽しまれるようになってきていることに触れ、多くの人の長年の努力の積み重ねであるそれらの成果を、尖閣等の領土問題が大きく破壊してしまうことについての恐れを述べています。 「文化の交換は『我々はたとえ話す言葉が違っても、基本的には感情や感動を共有しあえる人間同士なのだ』という認識をもたらすことをひとつの重要な目的にしている。それはいわば、国境を越えて魂が行き来する道筋なのだ。」 という言葉に、文化交流の重要性について再認識させられました。後半では、 「領土問題は実務的に解決可能な案件であるはずなのだが、領土問題が実務課題であることを超えて、「国民感情」の領域に踏み込んでくると、それは往々にして出口のない、 危険な状況を出現させることになる。それは安酒の酔いに似ている。安酒はほんの数杯で人を酔っ払わせ、頭に血を上らせる。人々の声は大きくなり、その行動は粗暴になる。論理は単純化され、自己反復的になる。しかし賑(にぎ)やかに騒いだあと、夜が明けてみれば、あとに残るのはいやな頭痛だけだ。 そのような安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽(あお)るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなくてはならない。」 と、領土問題が国民感情の域に踏み込んできた場合の危険性について、それを安酒の酔いに例えて表現されています。そして、中国の書店における日本人著者の書物引き揚げなどの中国側の行動に対して報復的行動を取ることなく、逆に「我々は他国の文化に対し、たとえどのような事情があろうとしかるべき敬意を失うことはない」という静かな姿勢を示すことができれば、それはまさに安酒の酔いの対極に位置するものとなると述べています。 結びの「安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂が行き来する道筋を塞いでしまってはならない。」という言葉には、さすが作家はうまいこというなぁ、と感心。 本当に、両国民が早く安酒の酔いから冷め、 お互いがお互いにとってなくてはならない存在である というところに立ち戻って、 友好的な関係を回復してほしいと願うつばめなのでした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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