カテゴリ:日本語研究・日中対照研究
5月に北京外国語大学に野田尚史先生の講演を
聞きに行ったつばめでしたが、その後、 6月に野田先生が北京大学でご講演されることを知り、 北京大学に留学している友人に教えてもらって会場に入り、 先生のご講演「言語によるコミュニケーションの違いと日本語教育」 を聞きました。 「中国語と日本語では相手に対する配慮をどのように行うかなど、 コミュニケーションのしかたが違う。 そのため、中国語を母語とする日本語学習者の日本語が 日本語母語話者には失礼な印象を与えたり、 日本語を母語とする中国語学習者の中国語が 中国語母語話者には失礼な印象を与えたりする。」 ということについて、「コミュニケーションに関係がある文法」 「対話スタイル」「言語行動」に分けて 具体的な例を挙げて詳しくご説明くださり、 「語彙や文法だけでなく、コミュニケーションも重要なので、 十分に教授する必要がある」 と主張されました。 私は今企業で担当しているメール・文書クラスの 添削をしながら、文法とか語彙とかの問題ではなく、 何を失礼と感じるか感じないかというような 思考回路(?)の問題を常々感じていたので、 野田先生のご主張には非常に頷けるものがありました。 私が今教えているクラスの受講生は、 ほとんどがビジネスで日常的に日本語を使っている N1以上レベルの学習者で、自分の要件をメールや文書で伝える という基本的なタスクはだいたい達成できるのですが、 受講生たちが望んでいるのは、 「できるだけ相手の機嫌を損ねることなく、 こちらの事情を説明したい、あるいは相手の要望を断りたい。 日本人らしい配慮のある感じの良いメールや文書を 書けるようになって、顧客との良好な関係を維持・発展させたい」 ということです。 (最初の授業で受講生がそのようなことを言っていました。) そういう視点で添削を行うと、彼らのメールや文書は 真っ赤になってしまいます。 彼らの書く日本語の文章は、確かに日本語なのですが、 文法も語彙も間違っていなくても、ここで、このような内容のことを こんなふうに言ってしまうとコミュニケーションに影響するという 部分があり、そのような部分はかなり表現を変えたり、 話の順番を変えたり、時には思い切ってカットすることもあります。 しかし、ほんとに真っ赤になるまで添削し、 なぜそのように添削したかという説明をつけて返すと、 多くの受講生から感謝の言葉が返ってきて、 「もっと厳しく添削してほしい」と言ってきた人までいました。 真っ赤な添削を見てショックを受けるのではないか、 嫌がられるのではないかと思っていたつばめには意外なことでした。 実のところ、皆んな、日本人はなぜ、そこで、 そのように書くのか(書かないのか)という 日本的な言語コミュニケーションのスタイル(ルール)を 知りたいと切望しているのです。 このようなN1は取ったけれども、 どうも日本的なコミュニケーションを取れるという 自信を持てないでいる学習者は、 日本語でスムーズなコミュニケーションを図れるようになるための 教材・教育を待ち望んでいるのではないかと思います。 日本語を学び始めた最初の頃は コミュニケーションの違いによる問題以前に、 最低限必要な語彙や文法を知らないと アウトプット自体が成り立たないというところもありますので、 語彙や文法などの重要性がより高いといえるかもしれませんが、 一定以上の日本語力がついてくるにしたがって 「対話スタイル」「言語行動」を含む コミュニケーションに目を向けた教育の重要性が 増していくのだろうと感じました。 先生の提起された「言語によるコミュニケーションの違いと日本語教育」 という切り口は、これからの日本語教育を考える際に 非常に有用なものであると感じました。 つづく。 ↓北京大学創立120周年記念国際シンポジウム 北京大学シンポジウム posted by (C)つばめ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021/03/08 10:13:22 AM
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