枇杷の葉
このところ、街で青々と茂った枇杷の葉が目に付くようになった。もう少ししたら、その青々とした葉の中に枇杷の実が目に付くようになるだろう。実はこの枇杷の葉は薬効効果の高いものなのだが、知っている人は少ないかも知れない。この枇杷の葉の効能は、なんと大乗仏典である「涅槃経」に初めて紹介され、枇杷の木を「薬王樹」枇杷の葉を「無憂扇」と称されていた。実際の療法は鑑真和上が持ち帰ったとされ、光明皇后が730年に開設した施薬院では枇杷の葉療法がおこなわれていたという記録も残っている。また、空海は枇杷の葉の温灸療法を持ち帰り、彼の教えと共に全国に広められたという。それまでに、民間療法として重宝されてきた大事な木なのだがどうも陰が薄い。その昔、中国では、すべての病気を枇杷の葉に頼っていた時代があったという。枇杷の木があると、病人たちが「その葉っぱをください!」「私にもください・・・」と集まってきて、しまいには長い行列ができたと言われる。そんなことから枇杷の木があると「ろくでもない病人ばかりが集まってきて、縁起が悪い!」・・・と心の狭い人たちは考え,枇杷の木を植えることを嫌い,“縁起の悪い木” となったという古事もある。だからかもしれない。実家の裏庭に大きなな枇杷の木があった。其れは姉が小さい頃、食べた種をそのまま植えたら立派に育ったと言う物だった。母は縁起が悪いからと嫌ったが、毎年成る枇杷の実を私達が楽しみにしていたので仕方なくそのままにしてあった。庭先で、良く熟した枇杷の実を頬張る楽しみは、今でもはっきり思い出すことが出きる。ある日、庭先で姉が足を挫いた。痛がる姉の足首を父は枇杷の葉で覆い暫くそのままでいるように命じた。暫くするとあら不思議、姉の足の腫れも痛みもずっと良くなったのを目の当たりに見てびっくりした記憶がある。なぜ父が知っていたのかは判らないが、博学な父だったから何処かで知識を仕入れてきていたに違いなかった。それ以来母も嫌うことはなくなったように思う。家の枇杷の木はそのまますくすく育ち大木にまでなったが、引越しをするときに切り倒されてしまった。白い切り口が痛々しく寂しかった。そんなこんな思い出があって街中の枇杷の木を見ると何だか懐かしくなる。枇杷の葉にはいろいろな効能がある。試して見たいがベランダで育てる訳にもいかない。こんなときだけ庭付き一戸建て・・・なんていうものが羨ましくなる枇杷の季節である。