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カテゴリ:小説
レイが去った後、めずらしく玲はインスタントコーヒーを自分から煎れた。ふだんこういったことは勇作がしているのだが、そんなことでもして気を紛らわせないと自分だけでなく勇作もおかしくなってしまうような気がした。それほどレイの発言は心をざわつかせるものだった。
カップを二つテーブルに置いて、畳の上に座る。向かい側には勇作が布団を背にしてあぐらをかいていた。落ちつかなげに貧乏ゆすりしながら、うつむいて何事かじっと考え込んでいる様子だった。 気まずい沈黙を払うために、おずおずと声をかける。 「コーヒー、どうぞ」 ああ、と勇作は顔を上げた。不安そうな玲の表情を見て取ったのだろう。ことさら明るい笑顔を作る。 「まったくコーヒーでも飲まないとやってられないよな。逸樹の奴、こんな夜中にやって来るなんて。もう二時だぜ」 「……先生、さっきからレイさんのことずっと逸樹って呼んでますね。どうしてですか? 逸樹ってレイさんの本名なんでしょう」 思い切って訊ねてみる。そうすることで、わだかまっていたものが少しは晴れる気がした。 どうしようかと迷うように勇作は頭をかいたが、やがて静かに口を開いた。 「やっぱり、逸樹の方が呼び慣れてるからだよ。長い間、そう呼んでたからな」 「長い間って?」 「俺があいつと、茂内さんと暮らしてた間のことだ」 ついに真実を知る時が来た。 茂内の名を聞いた時、そう確信した。 つづく ポチっと押していただけると嬉しいです! ↓ ↓ ↓ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008年05月23日 01時58分58秒
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