テーマ:乗馬・馬術(33)
カテゴリ:すみれの思い
今日、私すみれ(馬)の装蹄をして下さる先生を講師に、勉強会が行われた。
父は仕事で出席できなかったが、母は良い勉強をしてきたようだ。 装蹄(そうてい)というのは、馬のひづめの爪切りをし、蹄鉄をはかせること。 現在は国家試験はなく、法律上は「私、今日から装蹄師になります」と いきなり蹄鉄を打ちつけても、違法ではない。 が、もちろん、本当に馬のことを考えた装蹄をするなら、解剖学・運動生理学から 鍛冶に至るまで、幅広い知識と豊富な経験が必要なことは、言うまでもない。 勉強会の会場になったのは、乗馬・競馬を引退した馬を最期までお世話するために 設立された牧場。ここで、「高齢馬の脚のケアについて」お話を伺った。 馬の足の動き方から先生の身の上話まで、ときに脱線しつつも有意義なお話が 披露されたが、そのなかのひとつを、ここで紹介しようと思う。 先生が「高齢馬に多い脚の病気」として紹介して下さった病気のひとつは、 長年、日本では発生していない、海外の病気とされてきたそうだ。 しかし、どうやら事情が違うらしい、ということが、近年わかってきた。 皆さんは、馬は何歳以上が「高齢馬」とお考えだろうか。 競馬のお好きな方なら、「4歳以上が『古馬』」「7・8歳の馬はかなり少数」と お答えになるかもしれない。 馬術の心得のある方なら、「競技馬として活躍できるようになるのが10歳位」 「馬場馬術(より正確で美しい体の動きを審査される競技)では、20歳を超える 馬が競技会に出場することもある」というお返事もあるだろう。 先生のお話では、 「私たちは20歳ぐらいからが『高齢馬』とみている。馬の老化は15歳ぐらいから 始まるが、どういう生活をしているかによっても老化のスピードは変わる」 とのことだった。 しかし、日本には、20歳を超える馬は、どれぐらいいるのだろう? 先生によると、日本で飼われている馬の7割は、競走馬である。 (ここで言う「競走馬」には、現役の競走馬の他に、これから競馬場に行く若駒や 競走馬を産む父母となるための馬も含まれる) そして、残りの3割が、乗馬や馬術競技のための馬・肉用の馬(元競走馬も多い)・ 血液から医薬品原料を取るための馬・獣医学研究のための馬・(わずかだが)農耕馬 などである。 参考までに、アメリカでは比率が逆転して、競走馬が3割:その他が7割。 スイスに至っては、競走馬は馬全体の3%ということだ。 そして、日本では大多数を占める競走馬だが、先に述べた通り、「馬の寿命」と 「競走馬としての寿命」は、一致しない。 人間のプロスポーツ選手に例えて考えていただくと、わかりやすいかと思うが、 ハードなスポーツでのプロ生活から引退していく年齢は、一般の職業では まだ働き盛りの年齢である。 そして、一部のスター選手は、引退後もスポーツキャスターなどとして プロスポーツに携わった仕事ができるが、大多数の選手は、今までの仕事とは まったく縁のない世界で、第二の人生を歩むことになる。 馬に至っては更にシビアで、日本の競馬のシステム上『古馬(こば)』と 呼ばれるようになる4歳の夏は、体の成長もまだ終わりきっていない、 人間ならば中高生ぐらいの『子ども』である。 そんな若さでも、競走馬として価値がある、と認められる成績を残せなければ 競馬場を去らなくてはならない。 それどころか、競走馬になるために生を受けた馬も、全てがレースに出られる 訳ではない。馬主に買われなかった馬は、競馬場に来ることすらできないのだ。 そして、人間ならばプロスポーツ以外にも職はたくさんあるが、馬は職種も その頭数も限られる。「再就職」できる可能性は、限りなく低い。 更に、仮にそうした馬が乗用馬になったり、新たな競走馬の父母になる機会を 得られたとしても、そこで「失業」したときには、やはりその先は狭き門である。 馬主にとって必要がなくなった馬は、処分される。 『高齢馬』とみなされる20歳まで生きる場所が、引退馬には、ない。 …話が長くなってしまった。『脚の病気』の話に戻ろう。 そんな訳で、日本で『高齢馬』になるまで飼育される馬は、稀である。 獣医師や装蹄師も、高齢馬の医療に関わる機会そのものが、ほとんど無い。 先述の病気が「日本では発生していない」というのも、実のところは、 その病気が発生する年齢まで馬を生かす場所がなかったので、症例として データが残らなかったというのが、本当だったようだ。 (今から振り返ると、この病気だったのでは?と思われる馬はいたのだが、 当時は「原因不明の足の動きの異常」とされた、というお話だった) 近年では、馬の福祉が徐々に見直され、仕事ができなくなった馬を 馬主が最期まで所有したり、有志が引き取って余生を見守ったり、という ケースが現れた。 今回の勉強会の会場となった牧場も、そうした人々の馬を預かり、終生 世話をするための牧場だ。 こうした人々の声に応えて、高齢馬のための獣医学も、これからますます 進歩していくことを願いたい。 私も今年で15歳。先生の言葉によれば、そろそろ老化が始まる年齢である。 縁あってこの年齢まで元気でいることができた私だが、果たして、 私と同期の競走馬たちは、いま何頭が健在なのだろう…? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
May 23, 2005 03:39:34 AM
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