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2017.02.25
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カテゴリ:明治期・自然主義

  『妻』田山花袋(岩波文庫)

 上記の「自然主義小説の一代表作」(吉田精一)の読書報告、後編です。前編は思わぬ「『おじいさんのランプ』化現象」に触れていたらスペースがなくなってしまいました。どうもすみません。
 何とか半分から持ち直して述べていたのが、「平面描写」とは何かということですが、具体的内容に全く到らず終わってしまいました。2回目どうもすみません。
 気を取り直してがんばって考えてみます。

 さて前回も触れました本書「解説」の筆者吉田精一ですが、その解説文に書いてある「平面描写」の説明を引用してみます。

 要するに、主観を交えず、結構を加えず、客観の材料を材料として書きあらわす手法であり、客観の事象に対して内部に立入らず、見たまま、聴いたまま、ふれたままの現象をさながら描こうとする行き方である。

 ……どうですか。分かるような気もするし、なんかもひとつぴんとこない気もしませんか。それは私の理解力がとっても弱いせいですかね。
 でもなんか文学理論って、みんなそんな気、しません?

 しかしそんなことばかりも言ってられないので、自らの理解力のなさを棚上げにしつつ上記の文を考えてみます。結局「平面描写」とは、この3要素ではないか、と。

 1、作者自身の評価を下さない。
 2、ストーリーを作らない。
 3、登場人物の心理を書かない。


 ……えー、あー、いかがでしょう。って、ちょっと困ってしまいませんか。
 こうしてまとめてみますと、ほぼ小説の全否定ではありませんか。こんなので小説が書けるのですかね、書かれた「小説」は本当に「小説」なんでしょうか。
 「ストーリーを作らない」というのが、特に刺激的ですよねー。ひょっとしたら、私のまとめ方が間違っているのでしょうか。……うーん。

 でも花袋の時代の自然主義の方々は、本当に真面目にこんなことを考えていたんでしょうねぇ。なんか変に感心してしまいます。

 ところで、本書が上記の「ルール」をしっかり守って作られているかといいますと、それはもちろん作られていないんですね。
 なあんだとお思いの貴兄、そんなの当たり前じゃないですか。こんな「ルール」をきっちり守った文章は、小説になんかなりっこありません。(たぶん)

 というところで、「平面描写」的ということで私が興味深く感じたのは、「3」の逆の部分なんですね。逆というのはこういうことです。

 普通描写は、たとえ三人称の文章であっても登場人物の誰か、普通は主人公に寄り添っているものです。それは当然といえば当然で、普通は主人公の行動を多く描くからです。だから書くつもりはなくてもまた直接書かれてはいなくても、描写は結果的に主人公に寄り添います。
 そして普通ならその描写の性格は、ほぼ作品全体にわたって統一しているはずです。

 「普通」「普通」と書きましたが、私が本書を読んで興味深いと思ったのは最後の「普通」の部分です。本書はここが、「普通」じゃなく場面場面でバラバラなんですね。
 ある部分では「妻」に描写が寄り添っているかと思うと、別の場面では「夫」に寄り添い、次にはまた別の人物に寄り添っていたりします。
 さらに面白いのは、例えば「妻」から「夫」に寄り添いが変わった瞬間、「妻」の心理が見えなくなってしまうことですね。このちぐはぐさが、結構新鮮で面白かったです。

 結局の所「3」の逆現象は、心理を書かないつもりでいながら、書かなくては小説にならないことから起こった現象だと思います。変にこだわってしまうから生まれた「瓢箪から駒」現象ともいえそうで、しかしこれは結果的に、作品世界に巧まぬ(かつ少し歪でコミカルな)奥行きを与えたように感じました。

 さて全文を通して、本書の描写は素直で丁寧でゆったりしていて、本当は私はまずここに好感を持ちました。花袋は確かになかなかの名文家で、風俗小説的な興味がとてもかき立てられます。(明治期のプチブルジョワジー新婚夫婦の生活風俗という歴史的資料としても読めそうです。)

 例えば漱石の作品なら、風俗が描かれていてもその方向への書き込みはあまり広がって行かないように思います。漱石のテーマはあくまで登場人物の「心理」です。一作一作それをえぐるように突き詰めていくのが漱石作品の最大の魅力ではありながら、ただ時に、少し息苦しく窮屈な感じがします。(漱石も胃を痛め、最後には彼の命取りになりました。)

 一方「見たまま、聴いたまま、ふれたまま」という本書の記述は、ストーリー的には冗漫さを振りまきつつ、またなんだかよく切れないなまくら刀のようでもありながら、淡々とした「結構を加え」ない展開は、どこかほっとした懐かしい印象を読者に与えます。

 こういう小説って、わたくしふっと思い出したのですが、確かに現代小説にもありますよね。私が思いついたのは保坂和志の小説です。それは、殆ど日常生活の裂け目を書かない「ご近所づきあい」のような展開でありながら、多様な小説の有り様の中で、極めて独創性に富んだ興味深いたたずまいを創り出しています。


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Last updated  2017.02.25 10:19:10
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