たくさんいる天使達を見送る時、
優しい神様は微笑んでいるけれど、
ボクはいつも彼のことが気になっていた、
瞳がとても寂しそうに見えたから。
「どうした?」
じっと神様の顔を見つめていたボクに、
彼はかがんで話しかけてくれた。
「神様はずっとひとりなの?」
ここは雲の上。明るくて青い空から光がふりそそぎ、
白い煙に乱反射して、とてもまぶしい。
「ひとりなんかじゃないよ、
だってお前達がいるじゃないか。」
神様の言葉にボクは、今いる場所を眺めた。
たしかに、ボクと同じように、
背中から羽のはえた天使がたくさんいて、
思い思いにそれぞれの時間をすごしているけど、
でも。
「少しづつ減っては、少しづつ増えて。
同じ人はいないじゃない。
そういうのってさみしくないの?」
神様がどう思っているのかわからないけど、
言いながらボクのほうが悲しくなってしまった。
彼の腕に抱きついて、ぎゅっとする。
ボクだったらそんなの嫌だ。
「・・・ありがとう。お前は優しいね。」
神様の大きな掌が、ボクの髪をなでてくれた。
「でもさみしくなんてないんだよ?」
「どうして?」
「私の目には、
お前達が生まれ変わった後のことも見えているんだ。
時間なんてあっという間にたつし、楽しいものだよ。」
神様は遠くを見つめ、満足そうに微笑んでいる。
「・・・本当?」
もしかするとそのお話は、ボクを安心させる為に、
神様がつくったものなんじゃないかと思ってしまう。
「じゃあ、お前も見てみるかい?」
「・・・え?」
神様の顔が近くになって、その唇がボクの唇とくっついた。
「あ・・あの・・。」
「じっとしておいで。」
彼の手がボクの体のいろいろな場所に触るたびに、
なぜだかすごく気持ちよくなって、
ぼんやりとしてきてしまった。
このまま眠ってしまったら・・・
ボクもこの場所からいなくなってしまうんじゃないのかな。
「神様・・・みんなにこうしてたの・・?」
ヤキモチを妬いてしまう。
たくさんいる天使の中から、
今日はボクが選ばれただけなんだろうか。
「違うよ、早く思い出して。」
神様の声が耳元で囁く。
オモイダス・・?
息をつめた彼が少しだけ苦しそうな顔をしながら、
ボクの体を自分のおなかの上に座らせると、
すぐにボクも苦しくなってしまった。
下の方がなにかに圧迫されている。
「・・ほら、目をちゃんとあけてごらん・・。」
静かな彼の声の言うとおりにしてみると、
さっきまで白い雲の上にいたはずなのに、
その場所は、なにもなくて。
ボクと神様はふたりで空の上に浮かんでいた。
人間の世界を見下ろす風景が見えるし、
頭の中では、それぞれの
たくさんの人々の人生が、不思議と整理されて
同時進行で見えている。
「神様・・?。」
「な、さみしくなんてないだろ?」
体をつないだままで、彼の顔を目の前に見ている。
生まれ変わる前、
その前も、ずっとその前も、
何度も何度も。
いつでも、どんな時でも。
彼とボクはこうしていた。
「また、しばらく会えないな・・。」
それから神様はすまなさそうに、ごめんな、と言った。
「でも、また会えるよ・・。」
だから、今度はあなたが楽しんできて。
ボクは自分から唇を重ねて、
「もったいないから・・早く・・」
と言った。
神様、と呼ぶ天使の声が聞こえる。
たくさんの小さな体に囲まれながら、
頭ではいろんな世界が見えている。
ボクは、慣れないフワフワの足場にはしゃぐ、
天使達に世話をやきながら、
彼もボクのこと、
こんなふうにずっと見ていてくれたんだなぁと思った。
地上で新しく始まった彼の人生をも眺めながら。