「なにしやがんだ!」
つきとばされた体がゆかに転がり、
それは、恐い顔をして、もうひとつの人影を睨みつけた。
「誰にむかって言ってんだよ」
背の高い人影はポケットに手をつっこんだまま、
起き上がれずにもがく、床に転がったその体を蹴る。
外はもう夕方で、ましてやここは街のはずれにある廃屋。
辺りには誰もいなかった。
「さっき、三年の怖い兄ちゃん達から守ってやったのは、
どこの誰なんだか言ってみな。」
自分を睨む強気な視線に目をあわせて彼は言った。
横になっているほうの彼は、後ろ手に白い布で縛られている。
「守ってくれなんて言ってねーだろーが!
だいたい、てめーは誰なんだよ。」
「一応名乗っとこうか?三年の久弥だ。」
久弥は入り口の扉を閉めてその場所を密室にすると、
自分のブレザーを脱いで、胸元のネクタイを緩めた。
「ちょ・・・ちょっとなに・・。」
「心配すんな、すぐ終わる。」
いいながら、縛られている彼の服にも手をかける。
「冗談じゃねーぞ、てめーホモか!」
「・・そうかもな。」
冷静な声とはうらはらに、
久弥は両手に力をいれると、彼のシャツを乱暴に破った。
驚いた彼はとっさに、
両足の力だけでなんとか立ち上がると、
壁際まで走り逃げる。
「逃げたら俺じゃなく、あいつらに殺されるぞ。」
ゆっくりと久弥は彼を追い詰め、
長い腕で囲むと唇を重ねようとする。
「気持ちわりーってば!」
拒絶反応をしめす彼の体を、
あわてた様子もなく乱暴に引き倒した。
「卑怯だぞ!手ぇくくらせやがって!」
彼の叫びには一瞬、心外だ、という顔をして、
すぐにその白い布をほどいてやる。
そして、
「勘違いすんじゃねーバカ。
途中で気がかわったから、助けてやっただけだ。
ほっといたら今頃は、腕か足かなくなってたんだぞ。」
と、いいきかせるようにいった。
「ふかしてんじゃ・・。」
「てめーなぁ、自分がどれだけ嫌われてっか知んねーのか?」
「・・・それくらい・・・わかってら・・。」
彼はうつむいて、不安そうな瞳を泳がせている。
久弥はそれにはかまわずに、目を閉じてそのまま唇を重ねた。
ハッと我に返り、また暴れだした彼は、
さっきよりも両手が自由な分ひどかったけど、
ひとまわり体格のいい久弥が平然と押さえ込む。
「俺だって別にてめーに惚れてるわけでもないしな。」
まだもがく体を思いきり壁にぶつけるおとなしくなった。
そのままズルズルと床に落ちていく。
「だったら・・・なんで・・だよ。」
「さぁ・・興味とか・・。」
もうしばられていないのに、
身動きしなくなった体を久弥は蹴った。
「ヤル気になったか、もう逃げねぇの?」
「最・・悪・・。」
納得したわけではないけれど、
逃げることが出来ないことも理解して、
彼はあきらめてその瞳を閉じた。
ほんとうに義理で、形だけのその行為を終わらせた久弥は、
平然と立ち上がると自分の服装を整えて、
横になったまま動かない彼を見下ろし、
ひきさいたシャツのかわりに、
自分の上着を裸の体に投げてやる。
「・・・お前、名前なんだっけ・・?」
悪びれることもなく素直な疑問を口にする。
「高遠だ!仕返してやるからよく覚えとけ!」
半泣きの高遠も、いくぶんか安心したようにみえる。
「・・・元気いいじゃん。」
痛みの為、動けずにいる高遠を一人残し、
久弥は退場するのであった。