久弥は眠たくて、授業をさぼることにした。
「透どこ行くんだ?」
「せーとかいしつ、寝てくる。」
友達は笑って、
「共学だったら女連れ込んでるとこだな。」
と言った。
それから久弥は、二階にあるその場所から窓を開けると、
身軽に木に飛び移り、地上に軽々とジャンプする。
ギリギリで人にぶつかりそうになって、
「お、すまねー。」
と言った。
その顔をみて、あらためて
「あ、てめー・・。」
それは目を丸くして久弥の顔をみつめている高遠だった。
よっぽど驚いたのか、身動きをしない。
窓を見上げると友達が早くいけと手で必死の合図を送っていた。
きっと先生がきたのだろう。
「こいよ。」
久弥は高遠の腕をつかむと、そのまま走り、
いつも昼寝をしている生徒会室へ入った。
「あんなとこでつったってんじゃねーよ。
なにやってたんだ?」
高遠はうつむいている。
「・・し・・知らねーよ・・。」
「へんなやつ。」
久弥は上着を脱いで椅子にかけるとネクタイをゆるめた。
「その上着、俺が借りたやつ?」
高遠がいう。
「え・・ああ、そうだけど・・。」
久弥はいいながら、
長いすのソファーを一度もちあげてベットにした。
窓際に丸めてあった布を広げる。
「てめーも寝るかよ?」
久弥が首だけでふりかえり、高遠に問いかけると、
彼は静かにうなづいた。
「じゃあ、奥にはいんな。外側だと落ちるからよ。」
久弥が言うと黙って高遠はそのとおりにする。
窓から差し込む明るい光をさえぎろうと、
久弥はカーテンをひいてみたけれど、
布地の薄い白いカーテンではあまり効果がなかった。
二人並んで横になると、
高遠が落ち着きなくゴソゴソと動いている。
「どうした?」
「頭が低いと・・俺・・。」
枕がないと駄目らしい。
「しょーがねーヤローだな。」
久弥はそう言うと自分の腕を高遠の首の下にいれて、
腕枕をしてやった。
高遠はそのままジッと久弥の顔を見つめている。
「なに?」
「あんた、学校楽しいかよ?」
「・・ああ、てめーと違って仲間がいっぱいいるからな。」
「・・・・。」
久弥は高遠のほうに体をむけてもう一方の手で髪に触った。
「てめーは生きてること自体おもしろくないんじゃねーのか?」
「・・・わかんね。」
「一人じゃつまんねーだろ?なごむ努力くらいしろよ。」
「なんで、そんなこと・・俺に・・。」
「さあ、なんでかな。」
みつめあっている二人。
静かな時間がながれている。
「俺、あんたの言葉なら聞こえる。」
「ああ・・そうかよ。」
久弥はねむそうにあくびをした。
「もう寝ようぜ、俺は眠いんだ。」
「・・・うん。」
久弥は目を閉じて、
「俺もお前の言葉なら聞いてやんぜ。」
そうつぶやくと眠りに落ちた。
高遠は優しい人のその寝顔を、
穏やかな光の中でいつまでも見つめている。