今度久弥の目の前に現れた高遠は、
土砂降りの雨の中、傘もささずにズブ濡れで、
彼の帰りを待ってたっていた。
「な・・どうしたんだ?」
その場所は久弥の家の前。
彼の姿を見つけた高遠は、安心したようになにか言おうとした。
「・・・助・・け・・。」
「おい!」
そのまま、気を失って倒れそうになった高遠の体を、
久弥はカバンと傘を投げ出して、素早く抱きとめる。
手に触れた高遠の体は熱があるのかとてもあつかった。
とりあえず、雨をよけて家の中に連れて入る。
「しっかりしな。」
玄関先で朦朧としている高遠の頬を軽く打つ。
うつろな目で苦しそうに高遠は言った。
「薬、飲ま・・・された。」
「なんの薬だよ?毒なら指つっこんで吐け。」
「ちが・・。」
「じゃあ、なんだよ。」
走っていたわけでもないのに息はあらく、
赤くなって目には涙がたまっている。
「タオル持ってくるから、待っ・・。」
そう言って、立ち上がった久弥の腕を高遠はつかんだ。
「頼む・・だ・・抱いて・・く・・。」
熱い息に押されてうまくしゃべれない。
「は?」
そんな場合ではないはずなのに、
意外な高遠の言葉に久弥は動きを止めた。
「この・・前みたいに・・俺・・。」
「ちょっと・・お前まさか・・
なに飲まされたんだか言ってみな。」
高遠はポロポロと涙をこぼして、もうそれ以上何も言えない。
その様子を見て久弥は、
玄関の鍵をかけると、何もかもその場所に置いて、
高遠を抱き上げ、二階の自分の部屋へ行こうとした。
追い詰められている高遠は一秒も待てなくて、
自分を抱えて歩いている久弥の首を両腕で抱きしめて、
余裕なく自分の唇を彼のそれに押し付けている。
久弥はなにもいわずに、そのまま立ち止まり、
唇を自由にさせながら、抱えていた体を廊下におろした。
しがみついたまま自分をはなそうとしない高遠に、
「手ぇ離せよ、ちゃんとしてやるから。」
久弥は言った。その穏やかな口調に、
震えながらも手はゆるめられ、
安心しながらその体は開かれた。
なにが悲しいのか涙だけはあふれて
横になった板張りのゆかをぬらしている。
「も・・駄目だ・・俺・・死・・。」
久弥はそういう高遠の手をしっかりと握った。
「気ィ失うなよ、高遠、聞こえたか?」
かすむ目で視線を必死であわせた後、
高遠がかすかにうなづくと、
久弥はたまっている熱を吐き出させている。
「ビビんなよ、痛くねぇから。」
高遠が一度目をむいてから、眉をゆがめ、瞳を閉じる。
握られた二人の掌にも汗は流れて、
もう、雨のせいで濡れているのか、
それとも別のものでそうなっているのか、よくわからない。
「ひさ・・や・・。」
「透だ。」
「と・・る・・ごめ・・ん。」
「なに謝ってんだよ、バカ。」
薬のピークはすぎたようで、高遠の熱も少し下がった。
久弥がすべてのことを終えると、
高遠は腕枕されて、身を縮めたままぐったりとしていた。
「まだ、たりねー?」
久弥の言葉に高遠は首をふる。
あたりには二人の服が散らばり
廊下のその場所だけ水でもまいたように湿っている。
「家、誰もいなくてよかったな。」
久弥はつぶやくと、自分の腕にのっている高遠の髪をなでた。
「なんだてめー、まだ泣いてんのかよ。」
高遠はなにもいわなかったから、
久弥は顔を近寄せてキスしてから言った。
「薬盛られる程、仲間に気ィ許してるってのは
進歩したんじゃねーのか?」
「・・薬盛るってこたぁ
むこうは気ィなんて許しちゃいねーんだよ。」
高遠の声はかなりかすれていた。
「いんだよ、てめーが許してりゃそれで。」
久弥は横になったままで手をのばして
そこにあった上着を掴むと高遠にかけてやった。
「なんか、ほーびでもやろうか?」
なぐさめるように、背中をさすっている。
すると高遠は少し考えてから、
「また、来てもいいか。」
小さな声でそう言った。
近頃がんばっている自分への、
それがご褒美だとでも思ったのだろうか。