カテゴリ:Nostalgia Sketch
最後まで残っていた雪が、雨のに消えてゆく。
昨日までは固く引き締まり足を乗せても踏み堪えていた雪も、 今日はサクサクと崩れていく。 僕が通っていた小学校では、3学期の体育はスケートとスキーだった。 スキーは校庭の脇に三角柱を横にしたような築山の斜面を使って行われ、 スケートは校庭の真ん中にリンクを作り、そこで行われた。 心の中で冬休みへのカウントダウンが始まる頃、全学年の児童が校庭に集められる日がある。 その日が近づくといつも以上に防寒対策を口酸っぱく言われ、 足下もしっかりした長靴で来るように何度も念を押された。 その時間になると、校庭に出た児童がまず学年ごとに集められ、 それぞれが割り当てられた場所の雪を踏み固める。 校庭に積もった雪は連日氷点下の気温に晒されてある程度固まっているが、 それでも上に乗れば膝ぐらいか、場所によっては腰まで埋まってしまう。 みんな必死になって腿を上げ、さながら雪の上で繰り広げられる陣取りゲームのように、 踏み固めた部分を広げていった。 最初の頃は先生の言うとおり、あるクラスは一列になって、 またあるクラスは押しくらまんじゅうのように一塊になって動くのだが、 小学生だからそんな地道な作業もすぐに退屈し、いたずら心をうずかせる子も出てくる。 一人、二人と友達に向かってダイブする子や友達を雪の上に引き倒す子が出てきて、 それはすぐに伝染し、いつの間にか最初の目的はどこへやら、 ちょっとした運動会が始まる。 校庭のあちこちで鬼ごっこやプロレスごっこ、積もった雪は適度なクッションにもなるので、 ずっと雪と寒さで閉じこめられていたエネルギーをここぞと爆発させる。 普段おとなしい子や運動の苦手な子も、じっとしていると寒いから みんなに加わって動き回る。 そんな僕らを先生たちは注意することなく笑ってみていて、 中には一緒になってかけずり回っている先生もいた。 一時間も経てば校庭の真ん中に耳だけ残して食べたパンのように ぽっかり空いた空間ができあがる。 チャイムが鳴ると遊びの時間は終わり、皆教室へ帰っていく。 靴や手袋を脱げば、汗や長靴の脇から入った雪で靴下や手袋の中はぐっしょり濡れ、 上着を脱ぐとほてった身体に、ストーブでガンガンに温められた教室の熱気も 心地よい涼しさを感じる。 教室に戻ると皆新しい靴下に履き替え、用意のいい子はシャツも交換。 大きなストーブを囲うように付けられた柵には、濡れた靴下が 万国旗のように並んでいる。 踏み固められた校庭には用務員さんが何度も水をまき、 表面を平らにしてスケートリンクができあがる。 そして2学期の終業式の日にスケートリンク開きが行われ、 冬休みの遊び場が一つ増える。 スケートの授業は2月半ばで終わるのだが、リンクそのものはその後も 昼休みや放課後の遊び場になり、週末は一般にも開放された。 そして気温が少しずつ上がり、いくら水をまいてもリンクの氷が荒れたままになると、 リンクはお終い。 放っておかれるようになったリンクの上には新しい雪が積もるようになり、 雪が完全に無くなるまで、校庭から子どもたちの声は消え、 校庭は、つかの間の白い眠りに包まれる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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