統計から見る中国茶 その1
今日は、思いっきりマニアックなネタを書きます(宣言)。ちょっと前から、ハマっているのが、中国のお茶関係の統計を色々見ること。インターネットで中華人民共和国政府のWebサイトにアクセスすれば簡単に見られる。とても良い時代だ。#でも当然、全部中国語なので、探すのは大変かも(^^;)統計は面白い。一般的に思われていることが正しいかどうか、客観的な数字で事実を教えてくれる。中国茶に関しての色々な統計を見ていくと、中国茶が現在、グローバルにどういう流れになっているのかが何となく見えてくる。中国にとって、お茶はかつての外貨獲得の大事な手段であっただけに、生産や輸出関係の統計も結構揃っている。その中でも、特に面白いのは、生産統計と輸出統計。ここ3年ほどの比較や省別でも見られるので、推理力を働かせて読み解いていくと、意外な事実が見えてくる。非常に面白い研究テーマである。分かり易い例を挙げよう。中国茶というと、日本人の印象は何といっても”烏龍茶”である。だが統計を見ると、中国では決してメジャーなものではないことが分かる。#少し中国茶を勉強した人にとっては常識ですが。2006年の荒茶の生産統計は、このようになっている。#だんだん、大前研一のコラムみたいになってきた(^^;)中華人民共和国農業部のデータによれば、中国の荒茶生産量は、2005年 934,857トン2006年 1,028,064トンと、2006年は100万トンを突破。前年比約10%増で推移している。後述するが、輸出量はあまり増えていない。となると、国内の経済発展により、生活にゆとりができ、お茶を楽しむことが出来るようになったということがあるのかもしれない。これは、二十数年前の台湾の状況と似ている面がある。台湾も経済発展(工業、特にIT関連)によって国民の可処分所得が増えてから、茶の内需向けの生産活動が活発化し、茶文化が発展。現在見られているようなスタイルの”茶藝”が生まれた。この歴史が繰り返されるとすれば、今後、中国でもお茶の飲み方などの茶文化が発展していく可能性が高い。生産量の100万トンという数字は大きすぎてピンと来ないが、日本と比較すると、日本の2006年の荒茶生産量は9万1800トン。中国全体では、日本の約11倍の生産量があることになる。世界的に見ても、インドを抑えて世界1位となっている。次に、2006年の茶種別の生産量に着目してみると、緑茶荒茶 763,856トン烏龍茶荒茶 116,214トン紅茶荒茶 48,340トン緊圧茶原料 28,794トンその他 70,860トンとなっている。これを見れば一目瞭然のように、烏龍茶は日本での知名度の割には、10%程度の生産量に過ぎず、緑茶が多くを占めていることになる。その差は圧倒的である。(注)緑茶用荒茶の中には、プーアル茶の原料(いわゆる生茶)等に回るものもあるので、緑茶荒茶の生産量をそのまま”緑茶のシェア”と見るのは妥当ではない。プーアルに回ることが多いと考えられる雲南省の緑茶生産量を割り引いて考えると、6~7割程度が緑茶のシェアと推測される。また、ラプサンスーチョンやキーマン紅茶など、中国には世界的に有名な紅茶もあるが、その知名度の割に、生産量に占める割合は必ずしも高くない。わずか5%弱である。そして、他の茶類と比べると、生産量の伸びが止まっていることが分かる。さらに2006年の省別の生産量も統計として発表されている。まとめたものが下記の表である。この表を見ると、お茶の栽培されている地域とそうでない地域がハッキリ分かる。色々細かく見ていくと面白い表なのだが、一番左の列の総生産量上位の省を記すと下記の通り。 1位 福建省 200,059トン 2位 浙江省 152,361トン 3位 雲南省 138,176トン 4位 四川省 112,895トン 5位 湖北省 92,400トン 6位 湖南省 76,286トン 7位 安徽省 63,853トン 8位 広東省 47,432トン 9位 広西チワン族自治区 28,533トン10位 貴州省 24,939トン以下、 河南省 20,697トン 江西省 17,557トン 重慶市 17,087トン 江蘇省 13,279トン 陝西省 12,827トン 山東省 7,958トン 海南省 1,150トンと続く。この顔ぶれを見て、どのような印象を持たれるだろうか?1位の福建省は、武夷山の岩茶、安渓の鉄観音、福州のジャスミン茶、白毫銀針等々、様々な銘茶がずらりと並ぶお茶どころ。さすがの貫禄である。2位の浙江省は、緑茶の生産が全国一位であるように、龍井茶を初めとした様々な緑茶の産地。日本との距離も近くペットボトル原料などの輸出も盛んである。納得の順位。3位の雲南省は、輸出用に開発された雲南紅茶の他、近年のプーアル茶ブームの影響も大きい。台湾の茶商による、低コストの”安全な”茶産地としても開発中で茶の生産が伸び盛り。これも合点がいく。4位の四川省は、中国の茶文化発祥の地。峨眉山など昔からの茶産地を抱えている他、日本へのペットボトル原料の輸出も始まっている。ここまでは順当といえよう。ところが、5位の湖北省、6位の湖南省あたりになると、あまり「これ」という理由が浮かばなくなる。思い当たる銘茶が少ない。少し中国茶をたしなむ日本人から見ると、キーマン紅茶や黄山毛峰などの産地である安徽省の方が上に来そうな気がする。さらに上の表の右側の列に移って、茶葉別の生産量内訳を見ると、有名な紅茶が無いはずの湖北省の紅茶生産量が1位、湖南省が同3位なのはなぜか?世界三大紅茶のキーマン紅茶の産地である安徽省が、なぜ4位なのか?と、思わず首をひねってしまう事実が現れている。これだけでも、中国茶の勉強で出てくる知識とはマッチしない、不思議な現象が統計上で起きていることにお気づきになるだろう。というよりも、これが真の姿である。なぜこんなことになるのか?この統計だけでは、その理由はよく分からない。ここからは、自分なりに仮説を立てて、検証する作業が必要になる。統計は1つの資料だけではなく、他の統計をクロスさせることで、本来の姿が見えてくる。中国の輸出統計を掛け合わせて見ると、さらに面白いことが分かる。この話、かなりマニアックですが、つづく。統計は面白い(^^)