『本場に学ぶ中国茶』
”2012年中国茶の本シリーズ”は一段落したはずなのですが、あと2冊ほど追加しますw本日はこちら。本場に学ぶ中国茶こちらは昨年の12月19日に発行された本です。年末の大人買いの時に買おうと思っていたのですが、ネット書店に在庫が無く買えなかったのです。タイトル通りの本でして、中国で発行された中国茶入門書を日本語に翻訳したものだとか。出版元の「科学出版社東京」というのは、中国の出版社の東京支店のような扱いのようです。こういう出自の本ですので、今まで日本で出版されてきた中国茶の本とは全く違う切り口です。ページをめくってみると、文章量・写真点数が多く、内容がてんこ盛り。力が入っている印象です。最近、日本で出版されている中国茶の本は、写真を多く使った「見せる」タイプが多いだけに逆に新鮮な感じです。現地の本だけに、歴史や紫砂茶壺の紹介などの部分は、きちんと書かれています。特に歴史の部分のまとめ方は、さすがに上手いと感じます。が、全般的に見ると、中国の読者を対象として書かれた本なので、日本人が知りたい内容とは、かなりズレを感じます。この本では、お茶の紹介もあるのですが、そこではほぼ確実に「本物とニセモノ」の見分け方と「効能」が出てきます。本物・ニセモノという話は、どこで調達してきたかも分からないようなお茶が並ぶ、玉石混淆の中国の市場だったら、必要な話なんだろうと思います。が、日本に入ってくるものは、基本的には中国茶を輸入する業者さんが間に入っているので、危ないものが省かれている状態。なので、本物・ニセモノの話を強調されても、ピンと来ませんし、かえって「中国茶って、そんなに本物とニセモノを意識しないといけないぐらい怪しいものなの?」と訝しがられます。また、効能については、日本ではこれはアウトになるのでは?というような記述も散見されます。個人的には、「フリーラジカルを間接的に除去するので、アンチエイジング」云々の記述を見て、フリーラジカル(笑)となりましたwどうも眉につばをつけて読まないといけないような記述が多すぎます。また、お茶の紹介のところに「猿に茶摘みをさせた」といった、お茶屋の与太話的な伝説も書かれていますが、これがますます胡散臭さを増長しているように感じます。安化黒茶の紹介などでは、「なかでも千両茶は絶品で、すごいとしか言いようがありません」という紹介文が書かれています。中国で変な日本語を見た時のように笑うしかありませんw肝心のお茶の知識も怪しげなところがあります。特に烏龍茶、黒茶については、よく分かってないんだろうな、と思わせる記述が多いです。緑茶の専門家の人が、「とりあえず書いてみました」というレベル。本場の人が間違ってどうするの?と思いますが、これ仕方ないんです。向こうの茶葉研究所の人でも、緑茶は自信満々で答えるけど、烏龍茶はよく分からん・・・という人も多いので。烏龍茶に関しては日本人の方が詳しかったりします。なので、本場だからなんでも正しいと思うのは、危険です。よく読むと結構、トンデモな中身があったりします。そこだけ見たら、この本はぶっ飛んだトンデモ本です。あとは、日本の現実に即してないことを、向こうでは正しい知識として教えています。それの最たるものが、保存法。向こうでは冷蔵庫での保存を勧めるのですが、これは茶葉専用の冷蔵庫がある場合だったり、一回で全てを使い切る(再度冷蔵庫に戻すことはしない)という前提でのみ、正しい内容です。この本も、もれなく冷蔵庫保存を勧めており、こういうところはやっぱりマズイよね、と思います。このほか、この本では水の紹介もあるのですが、「純水」の利用を勧めたりしています。向こうの水道事情からすると、それが正しいのですが、日本ではどうでしょうねぇ・・・と、このような日中間のギャップが結構目に付きます。これは日本で出版する際にきちんと話をして、差し替えるべきだったのでは?と思います。翻訳に関しては、さすがにプロの方なので、全体的にはしっかりしていると思いますが、お茶のプロの方ではないと思われるので、ちょこちょこ気になる点が。まず、鳳凰単ソウのソウの字を「樅」にするのは、明らかに間違いだと思います。あと、「熟成茶は急須、若茶はカップ」なる表記があり、「?」となったのですが、おそらく「嫩茶(若い新芽を使ったお茶)」を「若茶」と訳したのではないかと。ちょっと分かりにくいです。私もネットで向こうのお茶の記事を読んでいるので、常々感じるのですが、向こうの文章はそのまま直訳しても意味が分からないことが多々あります。そこをお茶の知識でもって、補って読む必要があるのですが、この本の場合、直訳的な翻訳が多いので、読み手の方にある程度の知識が要求されそうです。向こうでは入門書かもしれませんが、日本では「現地の中国茶事情を知りたい、ちょっとマニアな人向け」。さらに言えば、「中国のアバウトさを笑い飛ばせる人向け」の本だと思います。本場に学ぶ中国茶―茶葉や茶器の選び方・おいしい淹れ方・味わい方…すべてがわかる一冊王 広智 (監修), 陳 文華(顧問), 岩谷 貴久子 (翻訳)科学出版社東京ISBN:978-4907051013【送料無料選択可!】本場に学ぶ中国茶 茶葉や茶器の選び方・おいしい淹れ方・味わい方…すべて...価格:1,575円(税込、送料別)ところで急に話は変わりますが、中国全土のお茶に加え、台湾のお茶まで含めて「中国茶」として飲んでやろうというスタイルは、日本の方が進んでいると思います。「そんなはずはない。中国の方が本場だろう」と思われるかもしれません。が、ここ数十年ほど、茶産地以外の中国人の国民的飲料は「白湯」でした。お茶は最近になって「国飲」にしようとしているものです。既にお茶を飲んでいた茶産地の人にしても、地元のお茶には詳しくても、中国全土のお茶に関してはよく知らないことが多いです。そもそも物流網も整備されていなかったので、「全国からお茶を取り寄せて飲む」なんてことをしていた&できたのは、一部の王侯貴族(あるいは文人)だけでしょう。「庶民が色々なお茶を取り寄せて飲み始めた」というのは、豊かさが浸透し始めた、せいぜいここ5年ほどのことです。まだまだ始まったばかりなので、現地の入門書というのはこのくらいのレベルなんだろうな、と思います。#では、「台湾は?」と思われるかもしれませんが、台湾に大陸のお茶が入ってきたのも、三通が本格化した、ここ数年程の話です(大陸茶については、工藤先生の翻訳書が本屋の棚に並ぶほどです)。そう考えると、日本の方が「多種多様な中国茶を飲む」ことに関しては進んでいる、というのが私の印象です。特定のジャンルを専門的に学ぶためには、現地の方が圧倒的に有利ですが、あれこれ飲む分には、あまり「本場仕込み」という言葉に振り回される必要は無いかと。個人的には、こういうアドバンテージがあるのだから、日本から中国茶の飲み方を逆輸出するのもありかな、と思っています。エスプレッソの本場はイタリアですが、それを世界に広げたのはアメリカのスターバックス。「中国茶が日本経由で世界に広まる」なんてことがあっても良いのでは?と、妄想していますwにほんブログ村こういう発想も面白いと思うんですよね