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テーマ:昔の日本映画(74)
カテゴリ:日本映画(1961~70)
谷崎潤一郎の戯曲『無明と愛染』の映画化。脚本は、現在日本最高齢(95歳)の監督として活躍を続ける新藤兼人。
『鬼の棲む館』 評価:☆☆☆☆ 私が一番好きでかつ一番上手いと思う女優、高峰秀子の出演作。 なので、今まで見たいと思ってきたが、機会がなくて鑑賞できなかった(3年前の東京国立美術館フィルムセンターで開催された「映画女優 高峰秀子」特集には熱心に通ったのだが、タイミングが合わず、この作品は未見)。 折良く、東京・池袋の新文芸坐で開催した「[没後十年]誇り高き昭和の天才役者 天衣無縫 勝新太郎」にて鑑賞。 中心となるのは(あらすじに記したとおり)盗賊となった勝新太郎、その妻の高峰秀子、勝の愛人の新珠三千代、新珠のかつての愛人の佐藤慶の4人だが、女性陣二人の演技が出色。 高峰秀子の凄さはいまさら言うまでもないが、夫が愛人と仲睦まじくする傍らで、その傍若無人な夫に健気に使え尽くす妻を通して、女の“怖さ”をいやというほど体現していた。とくに、新珠と佐藤が本堂にこもっている際に、庫裏での勝とのやりとりは絶妙だった。いや、お酒を造っておいた、鳥が焼けた、と甲斐甲斐しくしているだけなのだが、その有様が、背筋がぞっとするほど怖い。 確かに、こういう女性が妻だったら、逃げ出したくなるだろうなぁ。 そして、新珠三千代が妖艶。 新珠三千代というと私の世代的には、小学生の頃にテレビで見ていた『細うで繁盛記』の旅館の女将役──貧乏旅館に嫁いだはいいが、夫は不能、身内からの強烈ないじめやライバル旅館の嫌がらせなどの困難にもめげず、旅館を大手のチェーン店に育て上げる若女将──のイメージが非常に強い。 映画としては、『洲崎パラダイス 赤信号』の退廃的な女性姿や『人間の条件』でのひたむきな妻像、『女の中にいる他人』の情念の妻などが印象に残る作品。 なので、いままで彼女に、いわゆるエロチックな艶っぽさを感じたことはなかったのだが(って失礼かな)、本作での彼女は、ただひたすらに艶めかしい。なるほど、これならば女性断ちした僧侶でも誘惑されてしかるべきかもと思ったり(ヌード場面は吹き替えだったようだが)。 この妖しさに対抗できるのは、私がすぐに思い浮かぶ範囲では、往年の若尾文子くらい、かな(他にも、ロマンポルノ系とかで対抗できる女優はいそうだが)。 ただ、せっかく、その妖艶さというか猥雑さと“高潔”な僧侶と対決するのだから、脚本的にはもう一捻り欲しかった気はする。高僧が堕ちるのが、ちょっとあっけない感じだったのは残念。 (そもそも佐藤慶が高僧、というのがイメージに合わなかったりはするのだが) ということで、勝新太郎特集での上映ではあったが、高峰秀子と新珠三千代の演技を堪能すべき映画としてお薦め。 【あらすじ】(ネタバレあり) 南北朝時代。 晩秋のある日、戦火を免れた山寺に、京から一人の女性・楓が訪ねてくる。寺には、彼女の夫である太郎と、元白拍子の愛染が、戦乱の都を離れ、淫らな暮らしをしていた。楓は出奔した夫を探しまわり、ようやく見つけたのだった。 太郎は、自分が愛しているのは愛染だと、楓を追い返そうとする。そこへ、吉野へ逃げる途中の落武者の一団がやってくるが、自分達の暮らしを邪魔されたくない太郎は、彼等を悪鬼のように倒した。楓はそのまま庫裡に住み着き、太郎の世話をやきはじめる。 冬になり、蓄えていた食糧が底を尽きると、太郎は愛染のために都へ出て、盗み・浪籍を働くようになり、無明という名でおそれられるようになる。 春のある日、道に迷った高野の上人が、一夜の宿を求めて寺を訪ねてきた。迎え入れた楓は自分の身の上を語り、鬼のような夫の愛人のために苦しんでいると訴えると、上人は、愛染を憎む己の心の中にこそ鬼が住んでいると諭した。そこへ、無明の太郎が戻ってきた。太郎は、上人が所持していた黄金の菩薩像を盗ろうとするが、上人の祈りの文言に光を発した像の前に立往生してしまう。 それまで、陰で様子を伺っていた愛染が姿を現すと、上人は驚く。その昔、上人がまだ貴族の青年であった時に、白拍子の愛染に惚れ込み、恋仇きの貴族を殺してしまって、それが縁となって仏門に入ったのだった。呆然自失の太郎をみて愛染は、仇をとろうと、上人を本堂へと誘う。楓も、上人のありがたい説教で愛染が改心するのを期待して、二人を送り出す。 あの手この手で上人を篭絡する愛染に、抵抗虚しく上人は、彼女と体を重ねてしまう。勝ち誇った愛染の笑い声に、楓と太郎が駆け付けると、われに還った上人は、慚愧に身をふるわせて、舌を噛みきるのだった。「仏にこの身体が勝った」と嘲けり笑う愛染。その様子をみて、自分が何をなすべきかを悟った太郎は、愛染を一刀で切り捨てたのだった。 翌朝、出家した太郎は、高野山を目指して寺を出る。その後を、楓がついていく……。 『鬼の棲む館』 【製作年】1969年、日本 【製作・配給】大映 【監督】三隅研次 【原作】谷崎潤一郎 【脚本】新藤兼人 【撮影】宮川一夫 【音楽】伊福部昭 【出演】勝新太郎(無明の太郎)、高峰秀子(太郎の妻:楓)、新珠三千代(太郎の愛人:愛染)、佐藤慶(高野の上人)、五味龍太郎(武将)、木村元(中将)、伊達岳志(武者) ほか
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最終更新日
2007.07.10 18:08:13
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