終りなき編集者の仕事
出版社が著者と交わす契約書に出版契約書というものがあります。この契約書をどのタイミングでどういう内容で交わすかということについては、(出版契約書の雛形は一応あるのですが)出版社によって多少異なっているのではないかと思います。 出版契約書には契約に関わる細かな事項、著作権者名、出版権者名の他、発行年月日、印刷部数、印税率、献本部数などの数字を明記するわけですが、執筆依頼の段階では印税率以外の数字はまだ未定です。 そこで一般的には、著者に執筆をお願いする際には、原稿枚数 (予定のページ数) や脱稿予定日、印税率などの数字を記す欄を設けた (執筆を引き受けて下さったことの証となる) 契約書を交わし、本が完成した際に出版契約書を交わすところも多いのではないかと思います。 通常、出版契約書は2通作って、1通を著者、もう1通を出版社が保管しますが、出版契約書の作成を編集者自身が行うかどうかは、出版社によって異なるのではないかと思います。 著者が遠方に住んでいる場合には郵送という形になってしまうこともありますが、比較的近隣に住んでいるようであれば、出来上がった本 (献本分) と出版契約書を持って直接伺います。 出来上がった本を手にした著者の喜ぶ顔を見るのは、編集者としても何より嬉しい瞬間です。 献本と出版契約書を持って著者へのご挨拶を終えると、ここからは出版社の仕事です。 著者が苦労して書き上げた本を少しでも多くの方たちに知ってもらい、そして読んでもらえるように、広告・宣伝・販売活動に努めます。 営業部が事前に立てておいた販売計画に沿って動き出すことはもちろんですが、編集者自らも (宣伝用のポップを作ったりして) 積極的に書店に足を運びます。 また現在では、出版社にとってネット書店での売上げもかなり大きなものになってきていることもあり、リアル書店 (街の書店) だけではなく、そこへの情報提供も大切な仕事となっています。 そのため、本の内容や宣伝についての書き込みをオンラインで行ったり、本の内容見本を PDF にしたものやカバー画像をネット書店の担当者にメールで送ったりなど、社内から宣伝活動をする機会も増えてきています。 編集者は、常に4、5冊の本の編集作業を同時進行で進めています。 そのため、本が無事に完成した喜びに浸っている間もなく、もう次の本の校正や原稿割付の作業に取り掛かっていかなくてはなりません。 そんなわけで、出来上がった本を持って著者のところへ伺って、ホッとした気分になって帰社してみると、いま進めている別の本の校正刷がデスクの上にうず高く積まれているのを目にして 「うわっ、次のが出たのか」 なんて思うのは日常茶飯事です。 これから編集者になられる皆さんも、きっと同じことを経験することでしょう。 最後に一つ注意しておいて欲しいことは、編集者は常に企画・編集に追われていることもあって、刊行した本に対しては知らず知らずのうちに無関心になってしまう、ということです。 至極当然のことですが、編集者は、自分が担当した本の売上動向をきちんと把握していくことが大切です。 そして、その動向が良くも悪くも、その結果を自ら検討することが次の企画にも繋がることになるのですから、 “本が出来上がった後は営業部の仕事で、編集者の仕事は終り” ではなく、むしろ出来上がった後こそ大切だと思います。 それは、著者との関係についても然りです。 同じ著者に、またいつか執筆をお願いすることも十分に考えられるわけですから、著者との信頼関係をなくさないように努めることも非常に大切です。 今回をもって、 編集者入門ミニ講座 (改訂版) も終了としたいと思います。 このミニ講座が、 これから編集者を目指す皆さんにとって、少しでもお役に立てば嬉しく思います。