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カテゴリ:短編小説
「ネェッ!カナ聞いてるの~?」
私は手帳に書き込んでいた手を止めた。 そして手帳から視線を上げ、隣に居るユキを見た。 「なんだっけ?」 途端にユキの真っ白な頬が赤くなってプーッと膨らんだ。 「もぉ~!カナのばか~!」 「ん、ごめんごめん」 軽くユキの頭をポンポンと撫でてやると、多少機嫌が良くなったのか、ユキは男がヨダレを垂らしそうな唇をほころばせた。 「カナってば、人の話いっつも聞かないんだから~」 鼻にかかった甘えたような声で不平を言うユキを、私は無表情に見つめた。 聞いていないのではない。聞いてない振りをしているのだ。 「でね、ヒロ君が来月のユキの誕生日、みんなでお祝いしようって」 「そう。よかったね」 「だからカナにも来て欲しいの」 「いや」 ユキの大きな目がウルウルと潤みだした。私はそれに気付かない振りして手帳に視線を戻した。 「なんで?カナの都合のいい日に合わせるよ?」 「ユキの誕生日祝いなんだから、私に合わせる必要はないでしょ」 「カナにも祝って欲しいの。大事な友達だし」 私は鼻で笑いそうになったのを何とかこらえた。 「大事なヒロ君に祝ってもらえればいいじゃない」 「カナも大事なの」 私はグロスでツヤツヤしているユキの唇と、ラメでキラキラ輝く目元を見た。 男が好きなタイプの女ってのは、ユキみたいな女なんだろう。 お人形のような顔に、小さく華奢で壊れそうな体。ふわふわの薔薇柄シフォンチュニックが、更にユキの華奢さを引き立てている。 ヒロは最初に出会った瞬間から、ユキに夢中だった。 私はといえば・・・ずっとヒロの事が好きだった。 ユキと私は、幼稚園の頃からの腐れ縁だ。一般的には幼馴染という。 昔からユキは可愛らしかった。私はよく男の子に間違えられた。 子供の法則で、男の子たちは競うようにユキをいじめた。その度にユキは私の後ろに隠れ、私はまるで王子様のようにユキを守った。 ユキはそれ以来、私の後ろを避難場所にしてきた。 お陰で、私は密かに恋心を抱いていた男の子たちを、ことごとく敵に回してきた。 大好きだった子に「お前、ユキちゃんの周りをウロチョロしててうざい」と言われた時、私はユキの王子様を引退することを決意した。 特に勉強が好きだったわけではないが、猛勉強した。ユキと同じ高校に行かなくてもいいように。 お陰で、県内でもトップクラスの高校に進学できた。ユキはお嬢様学校に入り、やっと腐れ縁が切れたと思った。 だが、私たちはまるで恋人同士のように頻繁にメールをやりとりし、休日はほぼ毎週一緒に過ごしていた。ユキは異常にマメな女で、メールで済ませばいいのにわざわざ私に手紙や年賀状、暑中見舞いなどを送ってきた。 私は高校に入ったら、今度こそ自分だけをみてくれる男性とお付き合いしたいという願望があった。そして、ヒロに出会ったのだ。 委員会が同じというありきたりなきっかけで、私たちは友人として親しくなった。ヒロはエリート高校と呼ばれるこの学校において、異色な存在だった。日焼けした肌に茶色く色素の抜けた柔らかな髪。笑うと目が細くなって八重歯が可愛かった。 「俺、休みの日は海ばっか行ってんだ。サーフィンを授業に入れてくんねーかなぁ」 そう言って笑ったヒロの笑顔が眩しかった。 私は絶対にヒロとユキを会わすまいと誓っていた。会わせたら私のこの淡い恋も終わってしまう。 けれど運命はいつも私には残酷で。そう狭くないこの町で、ヒロとユキは出会ってしまったのだ。 お似合いな2人だと、心から思う。背の高い私とヒロが並ぶと、まるで男友達のようだった。 私の恋は、陽の目を見ることなく終わりを告げた。 「お願い~カナ。今まで、ずっと誕生日はカナと一緒だったのに・・・」 両手を組み合わせ、目を潤ませながら哀願するユキを私は横目で見た。 まるで某CMに出てくるチワワのようだ。襲いたいくらい可愛い。 「分かったよ。でもみんなで祝うのはお断り。別の日に2人でお祝いしよ」 「ほんと!カナありがとぉ!大好き~!」 ぎゅっと抱きついてきたユキを苦笑しつつ引き離す。 「お祝いする日はうちに泊まればいいよ」 私の提案に、嬉しそうに頷くユキが愛しくてたまらない。 そう。問題は、ヒロとユキが付き合い始めたと知った時、ヒロよりもユキを奪われた事の方がショックだったことだ。 今、私は、恋していたハズのヒロに、猛烈な嫉妬を感じている。 これはどういう事なのか。恐ろしい結果になりそうで、私はそれ以上深く追求するのを避けている。 ユキ以上に私をムラムラさせてくれる男に出会いたいと、切実に願う。 ----- 恋を自覚する瞬間はわりと突然だったりします。 恋を自覚した瞬間から成就する可能性がかなり低いと分かっていると辛いものですが、最初から答えの決まっている恋愛はない。と思いたいですね・・・(笑) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 8, 2004 12:34:56 AM
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