|
カテゴリ:短編小説
私は欠伸をしないようにするのに必死だった。
ふぅん、そうなんだ。と時折微笑みを浮かべながら相槌をうつ。 それだけで彼は嬉しそうにどんどん下らない話を並べ立てていく。 私は無感動に彼の顔を見つめた。確かに、悪くはない。笑顔も優しい。 けれど私が一番大好きなあの人に比べれば、どこもかしこも物足りない。 「ネェ、ヒロ君。私、チョット喉が渇いちゃった」 私は照付ける太陽を見上げ、疲れたようにため息をついた。 「何か買ってこよっか?何がいい?」 「何でもいいわ、あ、ウーロン茶がいいな」 分かった、と立ち上がる彼の背中を、私は安堵にも似た気持ちで見送る。 大切な日曜日を、こんな下らない事に使っているのかと思うとうんざりした。 本当にもう・・・彼がカナの想い人でなければ、こんな時間を割いて会う必要もないのに。 小さな頃から、カナは私にとって王子様以外の何でもなかった。 どんな時でもカナは私を守ってくれた。カナの側だけが私にとって安息の地だった。 だから私は、その安息の地を守るために今までずっと努力してきた。 私からカナを奪う者は、誰であっても許さない。 「お待たせ~」 汗を浮かべて自販機から駆け戻ってきた彼を見て、私はベンチから立ち上がった。 「ごめんなさい、私なんだか頭痛がして・・・今日はもう帰らせてもらうね」 「えっ、大丈夫なのか?送るよ」 結構よ。心の中でそう即答し、弱々しく微笑んでみせた。 「大丈夫。そこの駅までパパが迎えにきてくれるの」 パパという言葉に、彼が一瞬たじろいだのが分かった。 「あ・・じゃあ、駅まで・・・」 「ありがと。でもパパに怪しまれちゃうと、こうやって出歩くこともできなくなっちゃうから」 「そっか・・・」 彼は手に持った烏龍茶の缶を気落ちしたように見つめ、私に手渡してきた。 「じゃ、また・・メールするから」 「うん。またね」 私は彼に背を向け、駅に向かってさっさと歩き出した。 彼には家で電話すると叱られるから、と携帯の番号を教えていない。メールの返事をするのもわずらわしいのに、電話までされたらたまったものじゃない。 「ユキ?こっちだよ」 駅前にたどり着いた時、そう声をかけてきたのは父親ではなかった。 「カナ!迎えにきてくれてありがと~」 満面の笑みを浮かべて自転車にまたがったカナに駆け寄る。そして当然のように後ろに乗ってカナの背中にしがみついた。 「こんな暑い日に外ほっつき歩いてるから、具合悪くなるんだよ」 「うん。ごめんね」 ペダルを漕ぎ出したカナの背中で、私はようやく肩の力を抜いた。 仕事と愛人で手一杯で、年に1ヵ月も家にいない父親が迎えにきてくれる訳がない。帰ってこない父を黙々と待ち続ける陰鬱な母が家の外に出る訳がない。 どんな時でも、私を助けてくれるのはカナだけ。 私はきっと、カナがいないと生きていけない。 カナにとっては・・・私は手のかかるただの友達でしかないと分かっているけれど。 私の自分勝手で、誰より大切なカナを不幸にしているのは分かっている。何しろ、カナが好きになった男の子は全て奪ってきた。でもカナは何も言わない。いつでもよしよし、と頭を撫でてくれた。 その度に物凄い罪悪感に苦しんだけれど、それでもやっぱりカナを他の人にとられたくなかった。 いつまでも、こんな事を続けていてはいけないと分かっているけど・・・。 私は。もしかして悪魔なのかもしれない。 何故なら、カナも私と同じように私から離れられなくしようとしている。 何年も何年もかけて。計画的に。 きっと、いつの日かカナも、私を誰にも奪われたくないと思う日が来る。 もう悪魔でいいの。あなたを自分だけのものにできるのなら。 私を乗せて自転車を漕ぎ続けるカナの細い背中をぎゅうっと抱きしめた。 ----- 友人に「アンタの話は途中でムリヤリ終わってない?」と激しく突っ込まれたので。仕方なく続きを書いてみたものの。 ・・・やめておけば良かった^^^;^; 何だか、ユキは怖い女でした(笑) こんな恐くて可愛い女に心底愛されてみたいものですね。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Aug 8, 2004 12:35:30 AM
コメント(0) | コメントを書く
[短編小説] カテゴリの最新記事
|
|