嘘吐キ
「あれれ、アタシの目の前に嘘吐きが居るよ」今日の天気のように、今にも泣き出しそうな私に向かって彼女は言った。「いつも向日葵みたいに笑顔のいっちゃんが、どうしたん、そんな顔して」とても身長の低い彼女は、背伸びをしながら私の頭をポンポン、と撫でた。その瞬間、零すまいと我慢していた泪が私の目から溢れた。「どうしたと?何かあったと?ここ十日ぐらいかな、ちょっと様子が可笑しいよ」「ううん、何でもないよ。どうしてか分からないけど、情緒不安定みたいで―」「あれれ、アタシの目の前に嘘吐きが居るよ」嘘吐き…確かにそうかもしれない。実際は『何か』あったのに、何もない、と彼女に告げたのだから。「どうしてか分からないのに、突然泣き出したりなんかしないよ。情緒不安定だから?違う。何かあったから、そんな悲しい、不安な顔をしてるんじゃないの?」一瞬、ドキッとした。俯いた私の顔を覗き込んだ彼女が、全てを見透かすような瞳をしていたから。「いつだってキミのコトを見ているんだよ。だから知らないわけないじゃない。話してくれんと、何もしてあげられんよ」自分の中に溜まっているモノを偽らずに、全て吐き出せたら、どんなに楽か―だけどね、それを話すことは出来ないの。誰にも、ね…落ち込んだ時に、元気を与えてくれるあの人の笑顔さえ、今は辛い。Photo by NOION