夫婦ッテ、ナニ?
「夫婦って、一体ナニ?」あまり良くない意味で、とても興味深い夫婦が居る。私は口出しすることもなく、ただ傍観している。その夫婦は数年の交際期間を経て、夫人の妊娠をきっかけに3年前に入籍した。『出来ちゃった結婚』。まぁ、よくある話だろう。入籍前、夫人はよく“27には結婚する”と話していたと聞く。実際に、彼女は27になる年に入籍を果たしている。そんなエピソードを聞いた後に、交際中の性交渉では、常に避妊をしていなかった、という話をご主人から聞かされると、彼女の計算では?等とつい要らぬ想像してしまう。入籍後、暫くは部屋を借りて二人で暮らしていたという。ある時、夫人の実父が、家族の知らぬ間に、多額の借金を作っていたことが判明したそうだ。“父の稼ぎだけでは、とても返済出来そうにない。だから、実家に住んで一緒に借金を返済して欲しい”夫人はご主人にそう申し出た。当時、ご主人は諸事情により無職。負い目もあり、彼女の実家に住むこととなった。それからが彼にとって、地獄の始まりだったのだ。夫人は母親と一緒になって、幾度となくご主人を責め立てた。“私のお父さんは、もっと面倒を見てくれた。だから、あなたももっと子どもの面倒を診てよ”“帰りは毎日遅いのに、なんで稼ぎが少ないの?”“何処其処のご主人は、××してくれるらしいわよ。あなたもしてくれても良いんじゃない?もっと××して”“そんなんじゃ、お義父さんのようになってしまわよ!”ご主人は、次第に家から遠ざかっていった。居ても疲れるから家に帰りたくない、と洩らしていた。普通、夫婦どちらかの両親と同居している場合、夫なり妻なりが、味方につくのではないのだろうか?味方してくれる筈の人が一緒になって責め立てては、自宅での居場所がなくなってしまい、余計心が離れていってしまうのではないのだろうか?幼少の頃、父親から遊んでもらったという記憶のないご主人。“親父から遊んでもらった記憶が、ほんの少しでも残ってくれていれば…”仕事が忙しく休みも不定期なため、僅かな時間でも、子どもを抱いて散歩をした。しかし、夫人はご主人が薄汚れた格好で、子どもを抱いて近所を歩く姿がどうも気に入らない。“そんな格好で、子どもを抱いて散歩するのは止めて頂戴!”世話をしろ、と言う割には、少し可笑しな発言なのではないのだろうか?ご主人が夫人の両親を否定するような発言を少しでもすると、私の両親を否定するの!?と怒鳴り散らすが、ご主人の両親を平気で蔑むような発言をする夫人。“俺は駄目で、お前は良いのか?”それでも彼は、子どものために頑張り続けた。“やっぱり自分の血を継ぐ子どもは可愛いだろ。俺一人が我慢すれば取り敢えず丸く収まるんだから”苦笑しながら彼は言っていた。そして、何かにつけて夫の浮気を疑う妻。仕事の引継ぎ、相談の電話、メール。それらが女性の同僚からあろうものなら、携帯電話を片手に、夫人はご主人を激しくなじった。“○○さんと浮気をしているんじゃないの!?そんな話、電話やメールじゃなくても出来るじゃない”ご主人は、それが嫌で通話やメールの履歴を消した。しかし、それらを消したら消したで、また疑われる。何時だったか、どうしたら良いと思う?と問われたことがあった。『夫婦間の問題に入るってことは、ある意味、その人の人生を背負うってことになる。だから、そんな責任を持てないというのであれば、彼らの問題に関わらない方が、かえって親切だ』と30以上も年の離れた知人から言われたことがある。友達とはいえ、巻き込まれるのは御免だった。冷たい人と思われるかもしれないが、私は、彼の問いに、出来れば答えたくなどなかった。縋るような瞳。そんな目をして見詰められたら、何も答えないわけにはいかないじゃないか…「普段、会話してないって言ってたよね?自分が変われば、相手も変わるもんなんだよ。積極的に奥さんとコミュニケーションを取ったら?」そう私は答えた。しかし、残念なことに、この彼の努力が逆に夫人の疑念を煽った。“浮気をしていて、私に負い目があるからなのではないだろうか?”夫人の携帯電話チェックは、日増しにエスカレートしていった。事ある毎に、夫人は言った。あなたのことが信じられない、と。『信じられない』夫の稼いだ金で妻は、好きな服を買い、好きな時に髪を切り飾り立てた。浮気防止と銘打って、ご主人には一銭の小遣いも与えていないのに―“俺に自由はなく、ただ家に金さえ入れれば良いのか?”“子どもと離れるのは辛いが妻と離婚をしよう”ご主人が離婚を真剣に考え始めた頃だった。入籍以来、夜の営みを拒み続けていた夫人が、彼女の方から、かなり大胆に誘ってきたのだという。“なんだかんだ言っても、まだ愛してくれているのだ”彼は喜んで夫人の誘いに応じたそうだ。私はこの打ち明け話を聞いて、思わず言った。ちゃんと避妊した?と。不思議がる彼に私は答えた。「奥さんはね、離婚を考えてることに薄々気付いてるんだよ。奥さんにとって、あなたは金づるみたいなものでしょ?きっと、金づるを引き留めたくって誘ったんだよ。何ヶ月かしたら、二人目が出来たの、とか言われよ」私の発言に不快の意を表した。しかしこれが、数ヶ月後に現実となる。“妻から二人目が出来た、と言われた。俺はずっと妻と離婚することを考えていた。考えさせてと言ったら、もう堕ろせないから、お腹の子どもと一緒に私を殺してくれと叫ばれた。育てる自信はないし、堕ろせないから殺してくれ、と”彼は、迷ったという。それでも考えさせてくれという彼を、夫人は無理矢理産婦人科に連れて行った。“あなたは、この子を殺せるの?”お腹の中で動く胎児の映像を見せられ、子どもが生まれるまでは待とうと思ったそうだ。やっぱり、と言い掛けて止めた。“お前の言ったとおりになったな”育児も家事も全て母親がしてくれる。自分は何もしなくても良い、という環境。一度楽をすることを体が覚えてしまったら、もう苦労して自分が働こうとは思わなくなるだろう。どんな手段を使ってでも、繋ぎ止めようとするだろう。現在、子どもは無事に生まれ、すくすくと育っていると聞く。そして、新たに問題が発生しているとも…私は、彼の奥様に訊きたい。「夫は、あなたの奴隷なの?何故、信じられない人の子どもを生めるの?何故、信じられない人が稼いだお金を使えるの?何故、夫を労うことも、要求を聞き入れもしないのに、自分の要求だけ相手に突きつけることが出来るの?」夫婦って、譲り合って助け合って生きていくもんじゃないの?それって、結婚していない私の理想論?夫婦って、一体ナニ?Photo by NOION