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カテゴリ:落雷疾風記
「・・・・・・あれ、クローヴィス?」
男性の方が自分に話しかけてくる。自分もどこかで見覚えがあるような・・・・・・ 「・・・・・・セルク?!1ヶ月ぶりぐらいだね!」 その男性の人は、カルメス山に帰る途中、ロイドランゲイス湖付近で出会い、ヴィルム島の首都『ベルティナ』を案内してくれた6人の1人『セルク・トラバナス』であった。 「アハハ・・・・・・まさかこんな形で再会するとは・・・・・・」 僕とセルクは笑いあった。その姿を見てジャルースは仰天。 「ありゃま。セルクはクローヴィス君を知っておるのか?」 セルクは黙って頷く。 「だって爺ちゃん、クローヴィスと会った事なんか教えてくれなかったじゃないか。お母さんとしばらくナイルスから離れてベルティナで過ごしている間に、いつの間にかどこかと合併しちゃってるし。ナイルスのあった場所に行くと、跡形も無くなくなってるし。だからいままでベルティナでのんびり過ごしていたんだ。んでもってさっき『ベジリス』で連絡あって駆けつけて、この有様。」 (な、なんか今まで大変だったんだな・・・・・・) 僕が内心そう思っていると、ジャルースが大笑い。 「ハッハッハ・・・・・・いやぁ、今日は笑うことが多いのぉ。でもまぁいいわい。ここから10何kmの所にあるレヴェナス・・・・・・」 セルクがため息を漏らす。 「爺ちゃん・・・・・・それベジリスで聞いた・・・・・・」 「・・・・・・。」 女性の方は必死に笑いを堪(こら)えている。 「そういえば、その女性の説明をお願いしてもいいですか?」 セルクが反応すると、セルクはその女性の背中を軽く叩いてクローヴィスの前に寄せた。 「この子は僕の妹で、『レイシー・トラバナス』。日頃は大人しいけど、話し始めたら結構面白い奴なんだ。仲良くしてな。ちなみに僕は16でレイシーが14だ。」 レイシーが軽く礼をすると、ジャルースに伝言を伝えてどこかへ行ってしまった。 「夕食の準備をするそうじゃ。ここは廃墟にもかかわらず結構いろいろな物があるからの。調理ぐらいチョチョイのパじゃ。」 セルクが頷くと自分も手伝うことを告げて、その場を去った。 「・・・・・・さてクローヴィス君。先程の話だが、水晶玉の様な精霊石を見せたと思う。実はあの中に、「未確認の精霊」が入っている可能性が高い。手を近づけてみたティール感覚ですぐ分かった。だが、どうやら素人のわしらではお目にかかれぬようじゃ。この精霊石は君に預ける。まぁ少し考えてみるが良いじゃろうな。ほいじゃ、味見でもしてくるかのぉ・・・・・・」 ウキウキ気分でジャルースは部屋を出た。 (素人にはお目にかかれない精霊・・・・・・) 僕は黙ってずっと考えていた。 「・・・・・・ヴァルスィンのような精霊なんだろうか。特定の人しか持てない、幻の精霊、『幻霊』・・・・・・か。」 その精霊石は、擦ると異様な音を出す。水晶なら、キュッキュッというはずが、フォーンフォーンという音を奏でる。 しかし、今自分が疑問に思っていることは、なぜこんなに完全な丸に石を削ることができるのかということ。それは真珠のような自然体で、どう見ても人間の手で作ったものとは考えられない。もしかして、自然で作られたものなのか? そもそも精霊石には人造というものが無く、自然に作られた石の中に収まっているのが普通なのだが、石の綺麗なことといい、あまり長い間放置され続けた物とは思えないくらい、中が透き通っていた。だが、これが自然の美しさなのかもしれない。 そう思っているうちに夕飯が出来上がり、とても美味しく頂くと、再び床に就いた。 その夜、僕は考え事をしていた。だいぶ前の話になるのだが、ジンとヴァンスと共にカルメス山に登り、ミスリルとオリハルコンを発掘に行った時の事だ。あの時、登る途中でラールがオリーブ色からセルリアンブルーへと色を変えた。その時発したヴァンスの言葉がこれだ。 『・・・・・・どうやらラールが疲れてしまっているようだ。しばらくラールは使うことが出来ないが、我慢できますか?これでも生き物なので。』 ここに矛盾点がある。精霊は普通、『疲れ』という事を知らないのに、なぜかここでは1つの『生き物』として捉(とら)えられていて、精霊なのに疲れというものが存在している。それに、そのとき野宿したときに見せてもらった『エルガーラの書』というもの怪しい。自分の持っている本『ケルーハの書』は、ローレライから逃れるために開くと、自分達の身体が砂になった。それはそれでよかったのだが、あのエルガーラの書という本はなんなのだろうか。もしかして、あの時言っていた呪本なのだろうか。 しかし、ふと思い出すと恐怖心に怯(おび)える事がある。それは、『ヴァンス・ラールには、7つの能力が控えている』ことである。 今、瞬間移動の能力を使い、武器化の能力で僕を殺しに来るかもしれない。今、推読の能力を使い、こちらのやる事を読み取って来るかもしれない。今は、そんな気持ちでいっぱいだった。 その時、ドアがガチャッと開き、1人の男性が入ってきた。ガウセルだ。 「クローヴィス殿。先程はだいぶ苦戦しましたな。私も少し油断をしていました。」 僕が頷くと、軋(きし)んでいるドアから癒霊が入ってきた。女性型のようだ。 「この精霊が私を治癒してくれたので、今はこの通りだ。この方の名は癒霊『レイス(サピエンス科)』(人間型♀)。君も癒してもらうといいだろう。」 そのレイスという精霊は軽くお辞儀をすると、僕の腹部辺りに手を置いて、癒しの魔法『ヒールスメイル』の魔法文を何回も唱えた。そのおかげで少々外傷は残っているものの、ほぼ完治した。 レイスは何も言わずにその場から立ち去ると、下から賑やかな声が聞こえてきた。どうやら夕食の時間に楽しくやっていることだろう。 しかし、その声が聞こえたと同時に、どこからともなく歌が聞こえてきた。 『道を遮る赤き山 行き場を無くす青き谷 行方も知らずただ無意味に漂って 光る道の土に顔を伏せる 息ができないくらい苦しくて 降り続く雨の中に1人 優しい人は天にいて 親しい人は風になる 谷を照らした優しい人が 山を崩す親しい人が 山谷を道に変える 新たな私を今 見守る人が 私の歩く 道になる』 「・・・・・・。」 精霊石が静かに光る中、僕は放心状態のままでその歌を聴いていた。まるで話しているかのような声の抑揚で、僕は深い眠りに落ちた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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