タビの受難
タビの事件が起きたのはちょうど一月前11月5日のことでした。夜8時ころ外に出ていって そのままもどらなくなったのです。タビは生後3か月か4か月かそのあたりに近所でピーピー鳴いていたのを拾ったネコです。たぶん野良の子どもで親猫に親離れしろと追い出されたんじゃないかと推測しているのですが、詳しいことはわかりません。最初は玄関前に段ボールの猫ハウスをつくってそこにいてもらっていたのですが、冬の寒さが厳しくなってかわいそうだ、と家に入れることにしました。ずーっと外で暮らしていた猫で、私が飼い始めてからも当然のように家の中と外を行き来して暮らしていまして、それが今も続いていたのです。メス猫だし、タビは賢い猫だし、と家出することは自分の中の想定にはありませんでした。それが一日待っても、二日待ってももどってきませんでね。心配がつのって自分の中がからっぽになってしまうような なんか柱だけのふきっさらしの建物になってしまったような そんな喪失感がありました。私は一人暮らしで、今家の中にいるのはタビだけなので、ずいぶんタビの存在、その命に支えられているところがあったんだ、とあらためて思い知らされました。タビが居なくなったのは木曜日の夜です。金曜日には「どっか遠出したのかもしれない、落ち着いて待っていよう。」という気持ちでした。それが土曜日にも日曜日にももどらず、このまま帰ってこないこともありえる、自発的な家出かな?事故かな?もしや毒エサでも食べたのかな?といろいろな可能性が頭の中に渦巻きます。最悪何があったのかわからないまま もう二度とタビに会えない可能性だってあるぞ、と。たとえもうタビがかえって来ないとしても、それはそれで自分の気持ち立て直してやってゆかなくちゃ―――という気持ちもあるにはあったのですが精神的に弱っていることは否めませんでしてね、フラフラしながらの日々でした。月曜日になって、何もわかんないまま諦めるのはいやだ、わかんなくてもできることはやってみようと、保健所や市役所の関係課に電話をすることにしました。市内で事故にあった犬猫の情報が手に入るのはどこか聞いてみようと思ったのです。そうして関係する課にたどりついたのですが、その担当者が今外出しているので、もどる夕方に電話をくだささい、と言われ、そうしようと思っていたら昼過ぎ タビがもどってきました。交通事故にあったようで、左後ろ脚がぶらぶらしています。あわててケージに入れて 北上のいつもお世話になっている動物病院まで走りました。幸いなことに血液検査は正常で、内臓に怪我はないものの、脚が複雑骨折でその医院では処置できない。岩手大学の農学部の動物病院に紹介状を書きますが、このまま放置して自己治癒するのを待つという方法もありますよ。と 言われました。あれこれ、考えてタビが自分で治るのを待つ――という方法を選びました。まあ これがタビ失踪事件のてんまつです。タビはもう11歳を超えているので治りが遅いのかな、一か月経って このごろようやく痛めた足を時々床に着けることができるようになってきました。やはり治っても普通に歩くのは無理、とお医者さんに言われたけれど仕方ないと思っています。外で鳥を狩るのができなくなるかもしれないけれど、もうおばあさん猫なんだし、ね。庭で草取りをしていると 時々小鳥の頭蓋骨が落ちているのですが、あれ、タビの悪行なんですよね。やめてもらいたかったのです。(人間のエゴだとはわかっていますが)でも、タビが生きてそこにいてくれるだけで 本当にうれしい。当たり前の存在のものすごいありがたさや嬉しさや幸福を感じたのです、という報告でした。(* ̄(エ) ̄*)