楽園に吼える豹 第五章(12) 胎動
部屋のそこらじゅうに機械が転がっている。太さも長さもばらばらのコードが足の踏み場もないほどに蠢いていて、ゲオルグ・シュバイツァーは不気味さを禁じえない。足元に注意を払いながら、その部屋の中央へと足を進めていく。歩くたびに肩まで伸びた赤毛が揺れるのを感じた。部屋の中央には人間の身長の二倍はあるカプセルが置かれていた。その中には液体が満たされており、ゴポゴポと気泡の発生する音が絶え間なく聞こえてくる。その中にいるのは、人間の男性であった。眠ったように目を閉じて、得体の知れない液体で満たされた子宮でゆらゆらと浮いている。胎児だ。カプセルの中にいるのはどう見たって十代後半くらいの青年なのに、ゲオルグはなぜかそう思った。カプセルの傍には一人の男が立っていた。白衣を着ている。銀髪だ。ゲオルグの足音で、彼の訪問にはとっくに気付いているはずだが、全く興味を示す様子がない。仕方がないので自分から話し始める。「アスカ・清里の件ですが……やはり素晴らしいものがありましたよ。トゥーリアで彼女を観察していましたが、身体能力に関しては群を抜いています。金睛眼(きんめ)のこともありますし…あれはあなたがおっしゃるように、“豹(パンサー)”のDNAを持つ者に特有の性質なのでしょうか」銀髪の男は、そこまで聞いてやっと口を開いた。「さあ…目が金色になるかどうかなど、正直言ってどうでもいいがな。戯れで言ってみただけだ。大体、女のGSなど、別に珍しくもないだろう」「でも、“豹(パンサー)”のDNAを持つ女性は彼女が初めてでしょう」「まあ…それはそうだな。細胞をつぶさに視るくらいの価値はあるかもな。興味深いよ」「しかし、彼女をここに連れてくるのは至難の業ですよ」「だろうな。お前が彼女の知り合いに化けたところで、うまくいくとも思えん。トゥーリアではすぐに見破られてしまったのだろう?」『お前、誰だ?』単に観察力がずば抜けているだけなのか、それとも直感によるものなのか。銀髪の男は少し思索を巡らせたが、すぐやめた。推測だけではどうにもなるまい。「そこで考えたのですがね、彼女の“主人(マスター)”…シン・藤堂を使えばそこのところは何とかなるかもしれませんよ」今までゲオルグに背を向けていた銀髪の男は、そこで初めて振り向いた。「“アレ”に利用価値などない」瞳に憎悪が宿っている。ゲオルグはこれほどまでに感情をあらわにする彼を見たことがなかった。銀色の髪の奥に隠れたまなざしが、ゲオルグを刺すように見つめている。ゲオルグの“本当の顔”を知る数少ない人間が、今 彼を見ている。が、これしきのことでゲオルグは怯んだりなどしない。「そうとも言い切れませんよ? 藤堂の方はどうか分からないが、アスカ・清里の彼への忠義は相当厚いようです。そう考えれば、利用価値がないとも言えないのでは?」そう言った時、ぎらぎらと燃えていた憎しみの炎のゆらめきが、少しだけ治まったように感じた。そしてまたしてもゲオルグに背を向け、眼前の巨大なカプセルを撫で始める。「そうだな…そう考えれば、“アレ”にも存在価値くらいはあるのかもな。『グレイ』の実験の糧くらいにはなるかもしれん」カプセルの中で、また泡がごぽりと立った。まるで胎児が胎動しているようだ。はっきり言ってゲオルグには、その生き物が気味悪かった。自分の中に宿る人外のDNAが危機を知らせているのだろうか。なんとなくそれが不吉なもののように思えてならなかった。銀髪の男は、ただ黙って不気味な笑みを浮かべていた。外伝 優しい嘘へつづくネット小説ランキング、人気ブログランキングに参加しました。よろしければぽちっと押してくださいな♪ヾ(*・∀・*)ノ"↓ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「楽園(エデン)に吼える豹」に投票ハイ、漸くユキヒロに化けてた偽者の名前が判明しました。通じたかな・・・ちょっと心配^_^;でもゲオルグが何者なのかはまだ全く明らかになってませんね。それに謎の銀髪男も新たに出てきて・・・謎が謎を呼ぶって感じですね。徐々に明らかになっていきますので、しばしお待ちを(^^ゞところで、30000ヒットまで100を切りましたね!今回はどなたがキリ番をゲットされるのか、楽しみです(*^▽^*)ノ