「浅き春に寄せて」:立原道造
2月になると思い出す詩がある。立原道造の「浅き春に寄せて」。私がこの詩に初めて出会ったのは大学2年のとき。国文科の友だちにこの詩を紹介された。今は 二月 たったそれだけというフレーズで始まるこの詩はこの1行だけで私の感性をひきつけた。訴えるようなせつなさを感じてしまった。それ以来、プラスティックケースの下敷きにこの詩を書いた紙を入れていた。 浅き春に寄せて今は 二月 たったそれだけあたりには もう春がきこえているだけれども たったそれだけ昔むかしの 約束はもうのこらない今は 二月 たった一度だけ夢のなかに ささやいて ひとはいないだけれども たった一度だけそのひとは 私のために ほほえんださう! 花は またひらくであらうさうして鳥は かはらずに啼いて人びとは春のなかに笑みかはすであらう今は 二月 雪の面おもにつづいた私の みだれた足跡......それだけたったそれだけ......私には..... 私のこの詩のイメージはひんやりした二月の空気の中林の中から強く射す一筋の太陽の光。雪の中で一人、自分の中のせつない気持ちをぎゅっと抱きしめる。足もとには福寿草の花......立原道造は24歳の若さで夭折した詩人・建築家である。東京大学工学部建築学科在学中は卒業まで主席を通し、3年連続して東大学内の賞、「辰野金吾賞」を受賞した将来を嘱望された優秀な建築家であった。こんなに生粋の理系ともいう人が詩を書いていたなんて、しかもロマンティックでやさしい詩ばかり。彼がこの感性でもってどのような建造物を設計していたのかとても気になる。ぜひ見てみたい。 立原道造の詩はそんなに多くは知らない。でも、プロフィールや詩集の解説を読んでいるとこの人の詩をもっともっと読みたくなった。そして東大弥生門の所にあるという立原道造記念館。いつか訪れたらまたこの人のことを書きたいと思う。