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じゅびあの徒然日記

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2007年04月03日
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医者の不養生、とはよく言ったものだが、忙しいとついつい自分のことは後回しになりがち。
そうでなくても、人間というものは、何かあってもできるだけ「大丈夫」「何もない」と考えようとする傾向にある。
私も、肺がんになった母親からしょっちゅう「検診だけは行きなさい」としつこく言われるが、実際平日にどこかの勤務を休んで総合病院のドックを受ける、などということは難しい。
何か気になる自覚症状でも出ない限り、とりあえず問題先送りしてしまう。

だが実際には医者もただの生身の人間。
同じように風邪もひけば、インフルエンザにも罹れば、うつ病にもなる。
患者さんにタバコを止めるよう、体重コントロールをするよう勧めるのも、自分のことを棚に上げて、あくまで「医師として」アドバイスしていると思ってもらわないとね。

私も何人か、職業が「医師」である患者さんを知っているし、もちろん私自身が患者として医療機関を受診したこともある。

まだ学部の学生だった頃に、2週間ばかり入院したことがあるけれど、手術したその日、一般の病床が満床で、私はICUに入れられてしまった。
周囲は私より重症な患者さんばかり。あちこちで異変を知らせるアラームが鳴る。
私は落ち着かなかった。手術後の痛みもあったし、まだ歩けないので、トイレにも行けない。
マーゲンチューブ(鼻から喉を通って胃まで入れた管。口から食事が摂れない時に栄養剤を入れるため、逆に腹部の手術をした場合などは、胃を空にしておくために入れたりする)が入っていて、鼻や喉が痛い上、唾をのんで喉が動くたびに嘔吐反射が起きて苦しい。
緊急手術だったし、思ってもいない病気だったし、事態が受け止めきれていなかったし、トイレには行きたくなるし、眠ることもできずにいた。
トイレに行けないから、とオムツを当てられているのは判ったが、普段普通にトイレで用を足している人間が、急にベッド上でオムツの中に排尿しろ、と言われてもなかなかできるものではない(そういう経験がないと分からないので、医療機関の職員の中にはそれを理解できない人も現実にいる)。
だが、私は遠慮して、看護師を呼ぶことが出来なかった。
どう見てもここにいる中で自分が一番軽症で、看護師はあちこち走り回っていた。
トイレも、喉ももう限界。少しでも身じろぎすると創が痛む。
夜中の3時を回った頃だろうか、ようやく一人の看護師が私が眠っていないのに気づいた。
「じゅびあさん、眠れないの?痛む?無理せずお薬を使っていいのよ」
私はトイレが限界なので尿を採ってもらうことだけを何とか頼み、鎮痛剤や睡眠剤の使用は拒否した。
痛み止めや睡眠剤を使って、病気がよくなるとは思わなかったし、痛みがあれば痛みがあるほど、自分の身体が回復に向かうような気がしていたからだ。
また、急に発病して手術になったこと、思いも寄らない結果であったことを受け止めきれず、大きなショックを受けていたが、そのことも最後に退院するまで話せなかった。
医学部学生で、多少の知識もあるはず、と思われているだろう、という意味のないプライドが邪魔して、私は毎晩看護師に隠れて泣いた。

だからこそ医師としての私は、患者さんとしてお医者さんが来ても、取り立てて特別扱いをしないことにしている。
最初は相手のプライドも立てて「●●先生」と呼んだりするが、継続した治療に乗ってからは「●●さん」としか呼ばないようにもしている。
失礼の無いようにしなければならないのは、医者だろうとそうでなかろうと同じ。
むしろ医者が患者さんとして来た時くらい、「安心してただの患者さんでいさせてあげたい」と思うのだ。
もちろん、診断や治療内容の説明をする時には、若干医学用語を使ったり、素人さん向けの説明を省略したり、処方を少し変更するたびにカルテラベルの控えを出してそのまま渡したりという気は遣う。
医師に限ってマメに処方内容を渡すのは(通常、少しづつ処方をシフトする時には少しずつAからBに替えますね、という大まかな説明で済ませる)、患者さんへの特別な気遣いというより、看護師に尋ねられてしまうと「医者を相手に」答えられないからである。
むしろ自分のところの職員への気遣いだ。

しかし、病棟で医者の患者というのは嫌われることが多い。
「オマエなんかじゃ話にならない」というように看護師をバカにするような態度をとってしまう医者。
専門用語を出して、職員の知識を試すようなことをしてみたり。
自分から「俺はただの患者じゃないぞ」と特別扱いを要求する医者。
これは文句なしに嫌われる。
真夜中に当直医が出向いても「主治医じゃなきゃ話にならん、主治医をすぐに呼べ」と言った人、「今からすぐに処方を変えろ」とか「今すぐに自分に必要だから××(薬剤名)を出せ」言った人。
後は勝手に自分の判断で主治医の知らないうちに薬を持ちこんでのむ人(常識として入院していてありえないことだが、素人さんばかりでなく、医者にも多い)。
精神科の病気なんて、誰にでもやれると甘く見ていた身体科の医者が、無茶苦茶な自己処方で向精神薬を使い、どうにもならなくなってから来院されたもの....。

いずれにしても、(自分を含めて)医者がひとたび患者になってしまうと、厄介なものなのだ。





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最終更新日  2007年04月03日 23時30分39秒
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