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カテゴリ:いろいろなお医者さん
ご存知のように私の家にはうさぎがいるが、うさぎは当然、ベジタリアンである。
うさぎを飼っているのだから、ついでに私もベジタリアンになるべきだ、ということを言ったある先生のことを話そう。 ベジタリアンになればダイエットはできるし、肉や魚を買わない分お金が貯まるかもしれないが、激しくお断りである。 ベジタリアンになるのなら、手持ちの革製品を全部手放すべきだし、革靴も履けない。 一人暮らしをずっとするなら別だが、子どもと自分の食事を別々に用意するなんて、とんでもない。 私の知っている精神科医の中で、たった一人のベジー。 彼もこんなところで話題にされるのは不本意かもしれないが...許せ。 彼がベジーになった理由は、宗教的なものでも体質的なものでもなく、中学の時にテレビでペンギンが殺される映像を見て、可哀想だったから、である。 彼が加わる宴会には配慮が必要で、私が幹事のときには「インド料理屋」を会場にしたことがある。 インド料理屋なら、間違いなく完全なベジタリアン料理が用意できるからである。 彼はその後このインド料理屋を贔屓にしていたようで、お忍び彼女連れのところに遭遇したのだった(お忍びなら私の知っている店を使うべきではない)。 彼は宗教的にベジーなわけではないので、たとえばみんなで鍋を囲むと野菜ばかりをつついていて、出汁に肉やカツオが入っていることまでどうこう言うわけではなかった。 仕事だから、と病院の検食だけは普通に食べていた。 だが、たとえばキノコのクレープ巻きにチキンのだしが入っていることなどにはやはり敏感で、「これは入っている」と私が気付かないような匂いを嗅ぎ分けていた。 そんな彼だからだいたい宴会では割り勘負けするのだが、ただ一度だけ、彼が負けなかった宴会があった。 会場は寿司屋で、彼はなんと松茸の握りばかりをひたすら食べ続けたのである。 いつだったか、彼が自転車で側溝に落ち、怪我をしてきたことがあった。 下腿の前面にかなりの長さの裂傷を負い、ナート(外科で縫合)してきたと言う。 通常、高齢者でも1週間もすれば抜糸ができる。 だが、彼の傷はなかなかくっつかず、抜糸が遅れた。 長年のベジー生活で、慢性的な低タンパク血症だったに違いない。 「いったい普段、何を食べているの?」と彼に尋ねると、「豆腐とか、パスタが多い」と言っていた。 パスタは手軽ですぐにできるし、中に入れる野菜を変えるだけで違う味になる。 彼の住む病院宿舎の前の生け垣の下には、密かにネギが植えてあった。 卵や牛乳も摂らない彼の蛋白源は、ひたすら豆腐や納豆など、大豆だけだそうである。 やっと自転車の傷が抜糸された頃、今度は車で事故を起こした。 彼はスポーツタイプの車に乗っていて、顔に似合わず走り屋っぽい運転をしていたのだが、その車が一発で廃車になるほどのひどい事故だった。 幸い相手は誰もいなくて、自分だけで用水路に落っこちた。 晴天続きで用水路に水がなかったこと、ベジーな彼の体格が華奢だったのもよかった。 ぺしゃんこになった車の、隙間にすっぽり身体が入り込んだ状態で、彼は用水路に落ちた。 隙間は数十センチしかなく、用水路にもし少しでも水があったら、溺死していただろう。 命は助かったのだが、頸部を含む椎体を2ヶ所、圧迫骨折したのである。 だいたい、椎体なんていうのは、骨粗鬆症の人が折るもので、三十代独身の男が折るような場所ではない。 「なだ万」の野菜の炊き合わせ(笑)を持って見舞いに行くと、彼は頸部を吊られて、身動き一つできない状態でベッドにいた。 「先生、そこの引き出し開けてよ」と言って彼が見せてくれたのは、ぺしゃんこになった愛車の写真と、自分のレントゲン写真。 「ねっ、すごいでしょ」 ...自慢することかい。大体、明らかに骨密度が低くて骨がすかすかじゃないの。 彼は「野菜の煮物ってこんな美味しいのがあるんだー」と言って喜んで食べてくれた。 私はそれを見ながら「ベジー返上したら?30代男性で、圧迫骨折なんてあんた、学会に発表されるって。目のところ黒い線入れられて、スライドに載るぞー」とからかい半分、だが半分は本気で言った。 「そうだね、先生。これから乳製品は摂るようにするよ。そういうの、ラクトベジタリアンって言うんだよ。」 ...懲りない人だ。 結局一ヶ月以上かかって退院した彼は、普通に生活できるようになったが、彼女とは結婚しなかった。 やっぱりベジーなのがネックだったんじゃないのかな、と思ったものだ。 彼の奥さんになる人は大変すぎる。 そんな彼が後に言っていた。 「やっぱりインドの女性とかいいですよね。本当はずっと向こうに住みたいんですけど」 彼はバックパッカーでもあり、ユーストン駅(ロンドン)で寝ていたところを「泊めてやる」と言ってくれた見知らぬ現地男性について行き、もう少しで貞操を奪われそうになった経験を持っているのだとこれまた面白そうに話してくれた。 照明をつけてもつけても消され、おかしいなと思ったらもぞもぞと触られ、「ごめんなさい」とまた駅に戻って寝たそうだ。 ...勝手におし。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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