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じゅびあの徒然日記

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2008年09月18日
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カテゴリ:お薬の話
...眠れない時は眠剤をのまなければダメだ。
そういう幻想にとらわれている患者さんは多い。
時として、眠剤がなおさら睡眠状態を悪化させていることがあるにもかかわらず。

私は、精神科医の中ではかなり睡眠薬の処方が少ない方の部類だと思う。
本来統合失調症やうつ病があって不眠を呈している場合、大元の疾患の治療をするのが基本だと考えている。
そちらを治療すれば、睡眠はおのずと改善してくる。
睡眠薬で不眠を解決したとしても、それは一時しのぎ、生活リズムを作るためにすぎず、本当に解決したことにはならないとまで思っている。

極端な話、眠剤なんていうのは、健康な人が疲れすぎて神経が高ぶってしまい、休むことが難しい時や、海外旅行の時差コントロールのために、単発で服用するからよく効くのだ。

前医の処方をやむをえず引き継いでいる場合を除いて、私の処方では、ベンゾジアゼピン系の薬(眠剤+安定剤)が同時に3種類以上出ていることはない、と言っていい。

本来、私が初診担当ではないのだが、昔とてもお世話になった内科の紹介で、「コントロール不能な頑固な不眠」の患者さんがやってきた。
その先生からの名指しの紹介では、診ないわけにはいかないので、なんとか予約外来の合間で診察をした。
紹介状にはもちろん、現在処方されている薬剤が明記されているが、実際にはさらに他の内科2ヶ所にかかっており、そちらでも処方を受けているようだった。
患者さんはコレステロールと尿酸値も高く、そちらの薬も服用していた。
メタボっている場合の不眠ではSAS(睡眠時無呼吸症候群)を疑うのが鉄則である。
本人は内科で足してもらった眠剤で何とかこれだけは寝ているが、寝つきが悪い、寝た気がしない、昼間は眠いが寝るところまでいかない、などと話している。
内科で眠剤を追加してもらうと最初は眠れるが、だんだん効かなくなってしまうのだそうだ。
同席していた妻に尋ねると、夜の鼾がかなり激しく、日中は始終うとうとしている、と話す。
SASの可能性が高かった。
内科で眠剤数種類、安定剤、SSRIを開始されていたが、それらはいずれもSASには不向きだった。
ベンゾジアゼピン系で筋弛緩作用の強い薬は舌根沈下を悪化させるし、SSRIは浅い睡眠を増やす傾向がある。
SSRIをいきなり中断すると離脱症状が出て、後から信用されなくなってしまう可能性があるので、減量して残し、高齢者であることもありベンゾジアゼピン系の薬剤でなく、眠気の強く出る抗うつ剤を眠剤代わりとして処方した。
万一多少認知症のせん妄が入っていたとしても、その薬なら悪さをしない。
一般に精神科医なら抗うつ薬としてより眠剤としてよく処方する薬だ(内科医は通常出さないと思う)。
そして内科から出されていた様々な薬物から、血圧、コレステロール、尿酸値を下げる薬だけを服用するように指示し、一通りの検査もオーダーした。

そこまではよかった。
夕方になって、他の患者さんの診察をしていると、先ほどの初診患者さんから外線電話が入っていると言う。
私が電話に出るなり「睡眠薬が出ていない!これで今までの薬を止めろと言うのか」と怒鳴られたのである。
彼によれば、診察時には言わなかったが、まだ他にも何種類かの眠剤をキープしているようで、「●●と××ものんではいけないのか。▽▽はどうだ」などと言い出す。
診察時にも説明をしているが、SASの可能性や、「いわゆる普通の眠剤で、寝た気がしない場合の処方について」「高齢者が多くの眠剤を服用することの危険性について」もう一度電話口で説明し、とにかく不眠については、私の処方したものだけでまず様子を見るように伝えた。
ところが彼は、「内科の薬で眠れてはいた」「やっとここ数日食事も摂れるようになったのに、これで今夜眠れなかったらどうしてくれる」「絶対にこれで眠れるのか」「こんな薬では怖くてのめん」「俺は薬を変えると眠れないんだ」などと大声の、しかも早口でまくしたてた。
内科の先生は、その薬でコントロールできていないから、精神科専門のじゅびあ先生のところへ、と紹介しているのである。
内科の薬でいいのなら、紹介は不要だ。
一応、不眠については私の方がより専門だし、実際意外と不眠の治療は得意だ。
人間というのは健康な状態でも睡眠の波があるものだから、3日続けて眠れなかったら、その時にどうにかすればよいのだから、あまり強迫的になるのは逆効果であることを告げたが、彼は電話口で「眠れなかったら明日すぐまた行ってやるからな」などと叫び続けた。
まあ、十中八九、これまでの経験からも、自分の出した処方で彼は眠れるだろう、と思ったので、「この薬で眠れますから大丈夫ですよ。安心してのみましょう。」と伝えると、「今夜眠れなかったら、お前の薬なんかもうのんでやらないからな。」と電話が切れた。

...まあ、それは好きにしてもらえばいいのだが。
別に、もう来なくても、薬をのんでもらえなくても、私が困るわけじゃないんだけどなあ。
「普通の内科の先生」が、次々に眠剤を出してしまった理由もよくわかった。
でも多分、彼はあの薬で、数年ぶりによく眠れた、と次の診察に現れると予想している。
今までの大多数の「頑固な不眠の高齢者」さんたちと同じように。





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最終更新日  2008年09月18日 19時59分42秒
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