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カテゴリ:いろいろなお医者さん
総合病院に赴任したある精神科の先生に、久しぶりに学会で会い、食事をしながら聞いた話。
総合病院で一番エライ?先生は、内科系・外科系(心臓外科、脳外科、整形外科を含む)・小児科・産婦人科のメジャーと言われる科の先生たち、次点が眼科耳鼻咽喉科皮膚科泌尿器科などマイナーと言われる科の先生たち、その下に精神科、更に下に口腔外科(口腔外科は歯科医師なので、本質的に免許が違う)、が来るそうだ。 新しく赴任して納涼会に出席するので、前で挨拶をするよう依頼され、話す内容も考えていたのだが、会場では一切そんな場は与えられなかった。 そしてその会場に行って、内科や外科のおエライ先生たちは、精神科になど一切目もくれないことに気付いたのだそうだ。 話をしたのは泌尿器科の部長と眼科の若い先生、口腔外科の先生くらいで、内科や外科の先生たちには近づくことさえできなかったと言う。 第一線の公立総合病院であれば、現在ほとんど電子カルテが導入(あるいは導入検討)されている。 私も精神科専用の電子カルテなら、多少なりとも触ったことはある。 が、総合病院の、身体科用に作られた電子カルテは、精神科医からすれば、「全然使えない」のだそうだ。 精神科では現病歴、生活歴、ファミリーツリー、それまでの入院歴など精神科治療歴などがとても重要だから、一目で閲覧できるようなページがないといけないし、自分が新患について書き込みたい時にも困る。 ところが、そんなページはない。 また、精神科では、長期間で処方がどのように変遷してきたか、どういった症状(あるいは副作用)に対して処方変更したのか、処方変更によってどう症状が変化したが、が非常に大事だ。 ところが、身体科のカルテでは、一部の薬剤アレルギー歴などは別にして、ここ1週間何の抗生剤を使ったか、今何の薬をのんでいるか、が重要だったりする。 精神科専用の電子カルテなら、処方変更がどこでどのようになされたか、処方ごとに色分けされたカレンダーを月ごとに一覧表示できる。 身体科用のカルテでももちろん過去の処方を見ることはできるが、それは3ヶ月前の日付を入力するとその日の処方がピンポイントで表示される、という形式だったりして、全く役に立たない。 精神科に副科で依頼される、他科の患者さんをそれぞれの病棟に診察に行く時も、ギャップは大きい。 身体科の看護師さんたちは、患者さんが夜寝ないとか、大きな声を上げたりすることにとてもナーバスだから、夜中に数十分「おーい、おーい」と大声を上げ続けただけで、「大変なんです」と主科の主治医に訴える。 夜間の看護記録にも記事がわんさか載る。 ...この程度では、単科精神科病院で働いてきた私たちにすれば、「不穏」のうちにも入らない。 主科の主治医がSSRI、安定剤、眠剤を使っても、ますます症状が悪化したり、ふらつきがひどくなってしまったりすると、私たちの出番になる。 そういうのを四環系抗うつ剤や少量の抗精神病薬でどうにかするのが私たちの腕の見せ所で、数日後の副科再診の時に、主科の主治医が「いったいどうして(よく)な(った)んだあ?」と書いてあったりするのを見て、密かにほくそ笑むのが楽しみなのである。 ところが、副科依頼を受けて処方を出して、その夜から症状が改善したりすると、看護の観察記録から一切精神症状に関する記載がなくなってしまう。 私たちとしては、「夜間トイレ覚醒のみで静かに自床に戻った」とか、「訴えはあったが大声を出すことなく、視線を合わせて穏やかに話された」とか、よくなったらよくなったで、なんか書いといて欲しい、のである。 数日後に病棟に行くと、看護師は誰も彼も忙しそうにしていて、誰が今日のリーダーかも、誰に話しかけていいのかも分からない。 彼女たちにとって、その症状は改善してしまったら、もう「過去のもの」であり、精神科医がまた診察に来る意味なんて、理解不能なようだ。 やっとリーダーを確かめて声をかけても「ちょっと、精神科の先生が来てなんか言ってるけど、誰か聞いといてあげて!」みたいな扱いを受けるのであった。 ....でも、身体科と全然診るところが違うから、精神科は面白いのよね。 今日の学会だって、参加費が1000円安くなるから事前受付で申し込もうとしたら、診療部長の外科医に「精神科の学会っていうのは、1ケ月も前から参加する予定が組めるような連中の集まりなのか!」と嫌味を言われたんだよね、とその精神科の先生はブツブツ言っていた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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