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じゅびあの徒然日記

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2010年05月10日
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ここのところ、タダでさえ忙しいのに、休日をほぼ産業医研修会に奪われてしまっている。

法律の改正もあって、職場でのメンタルヘルスがトレンディになってきており、
休職中の患者さんに対し主治医が復職可能と判断しても、産業医のところで
ストップがかかることが多くなってきた。

その一方、「『精神科へ行って診断書を書いてきてもらえ』と職場の産業医が言ったので
受診しただけだ」と言って、診断確定のために検査を勧めても拒否、次回来院日をきいても
「そんなこと知るか」という休職の診断書ゲットだけが目的の困った患者さん?
(彼らは治療を求めていないので真の意味では患者さんとは言えない)
もいて、産業医ってのは随分失礼で不届きな輩だと思っていたのも事実だ。

産業医ってのは(時として精神科が専門ではなかったりするのに)何だってそんなエライんだ、
そんなことをこっちに指示してくるんなら、自分で診断して診断書作って、休職も復職も
決めればいいじゃんか!

...で、そんな私が産業医(日本医師会の資格)を突然取ろうと思ったわけ。
私は病院勤務医を続けるつもりで、どこかの企業の専属産業医になるつもりはさらさら無い。
しかし、ここのところ産業医との目に見えないバトルが増えてきており、
産業医の立場ってのをこっちも理解して、手の内を知るのがいいんじゃないかと。

新規に産業医になるには、基礎研修前期14単位、実地10単位、後期26単位が必要。
1単位は1時間なので、トータル50時間の研修を受けなくてはならない。
日常の業務をしながら、診察時間を削らないようにしながら単位を揃えるのだから、
当然土日や祝日を潰して受講するしかない。
しかも地理的に近いところでばかり単位を集めるのは難しい(定員になると地元医師会会員が
優先。一般勤務医はお金のかかる医師会員にはなっていないことが多い)ため、
一気に集める気なら、多少遠方でも国内を移動したり宿泊したりして集めることになる。
50単位揃えるのに期限は無いが、「少しずつ集めればいいや」と思っていると
忙しさにかまけて何年たっても産業医が取れない、ということになってしまうのだ。

かなり頑張って、無理もして、数ヶ月で8割方集めた。
受講してみていろいろ判った事がある。

産業医の先生が自分のためにもっと休んだほうがいいと言ってくれた、と勘違いしている
患者さんは結構居る。
だが産業医っていうのは、実は労働者のための医者ではない。
企業と契約を持っているだけで、労働者個人との間には何の契約も存在しない。
だから、原則まず企業の利益を優先する。
産業医がなぜ、労働者の健康を守るかと言うと、それは労働者が企業の財産であるからで、
労働者の健康を守ることで、企業の利益を上げるためだ。
また、産業医は労働者の健康安全に直接は責任を持たない。
責任を持つのは、雇用主なのである。
そして、企業は高給を払って産業医なんて雇いたくはないが、企業の規模により選任を
法律で義務付けられているので、仕方なく雇用しているのである。

主治医は、まず自分の患者さんの治療を第一に優先して考える。
その人を、職場に、社会に戻すためにどうするのがベストか、心を砕いて考える。
例えばその患者さんが休職を続けることが、本人の治療にかえって悪影響を及ぼす、と
考えれば復職を勧める。
まあ正直、企業の負担とか、周囲の同僚の迷惑なんて知ったこっちゃない(爆)。
極論すれば、最初に面接して雇ったのは会社なんだから、社員の面倒くらい最後まで
ちゃんとみな、くらいに思っている。

しかし、そこで登場した産業医が、「この労働者を復職させると他の労働者に迷惑がかかる」
「かえって企業の利益が上がらなくなる」と考えれば、当然復職はさせないということになる。
企業が本音は「むしろこのまま辞めてもらいたい」と考えているような労働者であれば、
なおさらだ。

主治医の診断書があっても、最終的に労務をさせるかどうかを決めるのは今までも
もちろん雇用主だったが、主治医の診断書の威力が最近落ちているということは
肌で感じていた。

例えば、復職できずに退職に追い込まれた患者さんが生活の糧を失って自殺をしたとする。
退職後の患者さんのことは、産業医には無関係、知らぬ存ぜぬだが、
主治医は場合によっては治療内容を叩かれる可能性がある。

もし、過重労働などが引き金で、雇用中の労働者が治療を受けることもなく自殺をしたと
すれば、企業はその責任を問われるだろうが、休職させ専門医に治療を受けさせてさえおけば、その責任を主治医に投げてしまうことも可能になる。
自殺の可能性がある労働者なんてのは、下手をすれば億単位の賠償が発生するわけで、
企業としては早いとこ縁を切りたいはずだ。

これがトリックなのだ。
だから、ある労働者が本人の人格的な問題もあって他の同僚とトラブルを起こしていたとする。
本音は、「会社にいてもらいたくない」。
「あなたは疲れているようだし、休んだほうがいい。専門の精神科にちゃんとかかったほうがよい」
こう説明して精神科に診断書を書かせてとにかく一度休職させる。
確認したが、産業医は企業側なので絶対にこの診断書を自分で書いてはならないそうだ。
数ヵ月後に復職可能の診断書をもって本人が来ても「本人の復職意思が明確でない」
「まだ治療が不十分だ」「もう少し休んだほうがいいのではないか」と産業医が言えば、
企業は復職をさせないでおくことができてしまうのだ。
そして主治医の手元にだけ、その「困ってしまった患者さん」が残る。

一部の企業や産業医がただ「精神科で診断書を書いてもらえ」とだけ言って、平気で
患者さんを送り込んでくるからくりが、ようやく理解できた。

もちろん、全ての産業医がこのような態度をとっているとは思わないが、
根本的に産業医は企業側の人間なのだ、という立場の違いは理解しておく必要がある。

産業医が送りこんできた患者さんには、主治医としてはやはり注意して臨まなきゃ駄目だ。
復職可能という診断書を何回書かされても、産業医のところでストップがかかる場合は、
「具体的な労務状況についてはこちらでは預かり知ることが出来ないので、貴職にて
ご判断ください」とはっきり書いてやろう...。

ちなみに、現在事務職の多い企業において、産業医の仕事のうち約6割が
復職面談を主とするメンタルで占められているそうだ。

精神科で、産業医ってのは確実にトレンディではあるのだった。





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最終更新日  2010年05月10日 21時53分13秒
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