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じゅびあの徒然日記

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2012年10月15日
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幸い、母は、胸水を抜いたチューブから胸腔へ炎症を起こす薬剤を入れても、
高熱も出さず、大して苦しむこともなく、いつの間にか終わった、というような
感じで胸膜癒着術の治療を終えることができた。

私も姉もほっとしたものだった。

胸膜癒着術を終えると、次に提示されたのは「当院は急性期に対応する病院なので、
後方病院に転院を検討してください」という指示だった。

平たく言えば、「まだ死ぬまでに半年くらいはあると考えられるので、うちの病院には
3ヶ月以上はいられません。うちでできる治療はもうありません。」ということだ。
残念ながら私が医師なので、その意図するところはよく分かってしまう。
後方病院、というのはいわゆる「老人病院」のようなところで、そこで死を待て、
ということなのだ。

「老人病院」で、母のような末期の患者に何をしてくれるかというと、
そんなにしてくれるわけではないということは分かっている。
「老人病院」であっても、助かる可能性のある患者さんなら手を尽くしてくれるだろうが、
母の場合はもう死を待つだけなのだから、正直それほど一生懸命延命してくれる、と
いうことはないと思えた。
何と言ってもああいったところは、入りたい患者(入れたい家族)が順番待ちなのだから。

主治医の指示通り、いくつか高齢者対応の病院に当たった。
ひとつは医師の知人の親が経営している病院でコネもあったが、姉が私の名前を隠して
相談員に話したところ、「当院は精神症状のある患者さんはお引き受けできません」だった。
実は、そうなることを予想していたので、姉が私の名前を出すことを憚ったのだった。
母の昔からの知り合いでもあるので、断られることが分かっていて、いたずらに母の名誉を
傷つけることもないし、私の親だからと無理に受けてもらって迷惑を掛けては、
後々私の仕事にも支障が出る可能性があったと思った、と姉は後で話してくれた。

母は、肺がんが脳に転移しており、時として幻視(熊がタオルをくわえて室内に立っている、
バッグからネズミが顔を出しているetc.)の訴えや、被害妄想などに代表される、
せん妄という意識障害があった。
今回全身状態が悪化する前にも精神症状が強くなり、施設で若いスタッフとトラブルを
起こしたため、その時も入院先を探していた。
あちこち断られた末に、1ヶ月ほどうちの院長が保護室で預かってくれたのである。
院長不在時に呼吸状態が一気に悪化し、もう限界と判断、もともと治療していた総合病院へ
転院依頼をし、母を送り出したのは、ほかならぬ私自身の手によってだった。

入居して3ヶ月ほどで看られないと一度叩き出された(数ヶ月でも100万円単位のお金が
償却で消えた...)施設だったが、そこの施設長が、それまでの対応を謝罪して
「そんな状態とは分からなかった。自力で食べられるか、胃ろう(※)が入っていれば、
(最後まで)看てくれる」と言ってくれた。
施設ならば、面会時間も夜遅くまで融通が利き、子連れでも許される。
母が食べたがるものを持っていって、いつでも一緒に食べることもできる。
いよいよ危ないとなれば、母の居室に一緒に泊まることもできる。
在宅医療を手がける先生を紹介してもらえば、「後方病院」で施される医療と大差が
あるとは思えず、私と母には施設のほうが合っているかもしれなかった。

そのことを主治医に相談した。
主治医は、「このような癌の末期患者に対し胃ろうを行ない延命することには意味がない」
と否定的だった。
私も医学的に分かっているが、何しろ私の母は三途の河原のススキの先1本にしがみついて
でも、この世に一日でも長く留まりたい人である(そのことはまた後で詳しく述べる)。
それに何より、一般の後方病院は、「精神症状のある」母のような患者を
受け入れてくれないのが現実なのだ。
そこを説明すると、主治医も胃ろうについては検討してくれることになった。

数日後、母は尿の出が急に悪くなり、院内の泌尿器科へ受診することになった。
受診には姉が付き添って行ったのだが、対応してくれた泌尿器科の部長先生は難しい顔を
して言った。
「もう癌は腹膜じゅうに広がり、そこから膀胱に達しています。
そのために血尿が出たり、尿の出が悪くなっているのです。」

姉は、主治医に転院を求められていること、転院先確保が難しいので施設へ戻すために
胃ろうを検討してもらっていることを話した。
泌尿器科の部長先生はかなり驚いた様子だった。
「この状態で、転院しろ、と言われているのですか?もうこの状態だったら、
最後までうちで診ますとお話しするのが普通だと思いますが...いや僕だったら、ですけど。
もし胃ろうを本当に検討するのなら、すぐにやってもらわないと、時間の問題で、
もうできなくなると思いますよ。」

泌尿器科の部長先生は、姉に見えるように電子カルテの画面を向けていたので、
姉はカルテの内容を見てしまった。
泌尿器科部長は、説明をするのに行き違いがあっては困るので、主治医の先生に来るよう
呼んだのだが、その返事は「今忙しいので行けません」だったそうだ。
そのこともあって、おそらく医師としてかなりの先輩であるところのその部長先生は、
内心ご立腹だったのもあると思う。
だからこのような説明をされたのかとも思うし、姉にもわざと見えるように、
電子カルテの画面を向けていたのかもしれない。
カルテの中には、本当に驚くようなことが書かれていたのだ。

胃ろう(※)=身体の外から胃に直接穴を開けてチューブを通し、その管から流動食を入れて
栄養を維持すること。中期的に経口摂取ができなくなりかつ経腸的には栄養を摂取できる患者さんに対し、生命と身体機能を維持する目的で行なう。






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最終更新日  2012年10月15日 23時27分49秒
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